安野貴博氏が提唱 仮説を思いつく確率を上げるための思考法「逆をいく」「極端な人の予想を参考…

2025/04/16 07:00 

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安野貴博氏

 「本来は石橋をたたいて渡るタイプ」でありながら、政治経験も地盤もゼロで2024年の東京都知事選に立候補したAIエンジニア×起業家×SF作家・安野貴博氏。心配に負けず、ものごとを「はじめる技術」の一つが「自分なりに未来を見つけるための発想の原点となる仮説」にある。著書『はじめる力』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成して届ける。

【写真】都知事選で話題!安野貴博氏『はじめる力』書影

■発想のジャンプ

自分なりの未来を見つけるためには、発想の原点となる仮説を持たねばなりません。できれば、他の人が言っていないものが面白いと思います。

その型は「もし~だとしたら」です。

たとえば、私が共同創業したMNTSQ(モンテスキュー)は、「もしAIが弁護士の仕事を担えたら」という仮説からはじまっています。

このような仮説を思いつく確率を上げるための思考法には、いくつかのパターンがあります。

1 みんなの予想の逆をいく

たとえば、マッチングアプリなどのオンライン恋愛がますます流行すると世間が予想しているのであれば、あえてラブレターからはじまる関係を構想してみる。手紙の書き方サポートや、最適な文房具・レターセットなどのビジネスも考えられるかもしれません。

人間の平均寿命はますます延びて、人生100年時代になるという予想もあります。そうなると逆に、「短期間で人生を濃密に生きたい」という人たちが現れるかもしれません。その場合は資産を「貯める」のではなく「どんどん使う」ためのファイナンシャルプランナーが必要になるでしょう。

2 極端な人の予想を参考にする

製品やサービスについて極端な使い方をしている人にインタビューをします。

これは、エクストリーム・ユーザー・インタビューと呼ばれているものです。

たとえば、チキンラーメンについて、日清食品がテレビCMの中で「お湯をかけずに食べる」という食べ方を提案したところ、その後、SNS上で一部の人から、この食べ方に関するコメントが継続的に寄せられていたそうです。そこで開発されたのが「0秒チキンラーメン」です。1年で2000万食を売り上げたヒット商品になっています(*1)。

3 変な人を脳内に飼う

人と違う発想が必要であれば、自分とは違う発想をする「変な人」のエミュレーター(対象のものを摸倣する装置)を脳内に持つのがオススメです。「あの人だったらどう考えるだろう?」ということが発想できるようにしておくのです。

すると、エクストリーム・ユーザー・インタビューをするまでもなく、通常自分が思いつくのとは違うアイデアが湧くようになります。

たとえばイーロン・マスクを自分の中に飼うことによって、「このときイーロン・マスクだったらどう言うか?」といったことを想像できるようになると、発想を飛躍させやすくなります。ちなみに作家は、この訓練を自然としているのではないかと思います。セリフを書くときなどは、各キャラクターのエミュレーターが脳内にないと書けないのです。

■SF的に語られた未来は意外と現実になっている

SFというと、荒唐無稽なイメージを持たれるかもしれませんが、SF的思考が現実化してきたものも多くあります。

たとえば、「ロボット」という単語が初めて世に出たのは、1920年に刊行された『R.U.R.(*2)』(カレル・チャペック著)というSFですし、「遺伝子工学」の概念を初めて物語にしたのは、1951年の『ドラゴンズ・アイランド(*2)』(ジャック・ウィリアムスン著)というSFでした。

その後、初めて産業用ロボットが開発されたのが1961年、遺伝子工学の研究がはじまったのが1970年代ですから、これらは世の中に存在する前に想像され、物語になったものといえるでしょう。

現在時価総額上位の起業家も、SFの影響を受けて、事業を構想したという説は少なくありません。

たとえば、グーグルのセルゲイ・ブリンは、『スノウ・クラッシュ(*2)』(ニール・スティーヴンスン著)に影響を受けたそうです。

『スノウ・クラッシュ』では、力を失った政府に変わり、大企業やマフィアによる「フランチャイズ国家」に分裂したディストピアの中で、メタバースが築かれたアメリカが舞台です。話の中に、空間にある情報を追跡する「アース」というソフトウェアが出てくるのですが、それが「グーグル・アース」の構想につながっているという話があります(*3)。

アップル創業者のスティーブ・ジョブズも、Siriの構想にあたって『2001年宇宙の旅』(アーサー・C・クラーク著)の影響を受けているという説があります。

『2001年宇宙の旅』には、人間の質問に様々な答えを返してくれるHAL9000という人工知能が出てきます。実際にアップル社はHAL9000にそっくりなSiri用の周辺機器もつくっています。

こうして見てみると、誰かの想像を、他の誰かが現実にしながら、未来が進んでいるといえるかもしれません。

*1 日本経済新聞「(人気商品 ここが突破口)日清食品「0秒チキンラーメン」塩分半分でも味わい再現」(2022年8月24日)

*2『R.U.R.』は、邦題『ロボット R.U.R.』(中公文庫)、『ドラゴンズ・アイランド』は、邦題『超人間製造者』(久保書店)、『スノウ・クラッシュ』は同じ早川書房にて刊行

*3 HAYAKAWA BOOKS & MAGAZINES「早くも重版決定! 「メタバース」の語を生んだ伝説的SF小説『スノウ・クラッシュ』がいま大流行のワケ」(2022年2月10日)

■著者・安野貴博(あんの・たかひろ)
合同会社機械経営代表
AIエンジニア、起業家、SF作家。開成高校を卒業後、東京大学へ進学。内閣府「AI戦略会議」で座長を務める松尾豊の研究室を卒業。外資系コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループを経て、AIスタートアップ企業を2社創業。デジタルを通じた社会システム変革に携わる。未踏スーパークリエイター。デジタル庁デジタル法制ワーキンググループ構成員。日本SF作家クラブ会員。2024年、東京都知事選挙に出馬、デジタル民主主義の実現などを掲げ、AIを活用した双方向型の選挙戦を実践。著書に『サーキット・スイッチャー』『松岡まどか、起業します』(ともに早川書房)、『1%の革命』(文藝春秋)。
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