霜降り明星せいや、高校の新学期「1軍に入らないと…」焦りが生んだしくじり
せいや初の半自伝小説『人生を変えたコント』執筆風景
【写真】赤字がびっしり…せいやの執筆風景
■ある日、登校して教室に入ると…ショックと恥ずかしさ
お笑いが大好き。そんな事実をみんなに知ってもらいたい。小学校のときから漫才に惹かれ、自分でネタを作ったり、分析したりまでしていた。でも、自分のアピールポイントを急に言うのは逆にサムいし、恥ずかしい。
そんな思いがずっと頭のなかでグルグルするだけで、思いついては消しての繰り返しで、気づけば3日4日と経ってしまっていた。
そんなある日、クラスの休憩時間に初めてぐらいの盛り上がりがあった。これはいったい何事かと離れたところから見ていると、どうやらできて間もない男女グループが“ゴミ箱シュート”をして楽しんでいるようだ。ゴミ箱から離れてペットボトルを投げて、上手く入れば盛り上がるというすごく単純なゲームだが、グループを作れたことに安心してか、異様な盛り上がりを見せていた。「俺たち私たち、早くもこのクラスの『一軍』です」みたいな顔にさえ見えた。
「このグループに入らないと……」
盛り上がる景色を目の当たりにして、イシカワは焦ってしまった。なんとかこのグループに入れるようにみんなの気を引きたい。
そんなとき、ひとりの女子が「どうやったら上手くペットボトルをゴミ箱に投げられるんだろうね?」とみんなに尋ねていた。ここでイシカワは人気漫画『スラムダンク』の主人公・桜木花道のあるセリフを思い浮かべた。
「あれ、このタイミングでこのセリフで入っていったら、みんな笑ってくれるんじゃないか?」
いきなり飛ばしすぎかもしれないが、「よし、行ってみよう!」とイシカワは意を決してそのグループに近づき、ペットボトルをバスケットボールに見立てて、「左手はそえるだけ」と『スラムダンク』の作中のモノマネをかまし、笑いを誘おうとした。
しかしそのネタを披露した結果、とんでもない空気になった。泣きたくなるくらいの冷たい静寂が教室に流れ、イシカワにとっては1秒が10分に感じてしまう、それぐらい凍てついた雰囲気になってしまった。
「やってしまった」。そう思ったときには遅かった。あれだけヘマをしないように、一歩目を慎重に考えていたのに、いきなり大きく踏み外してしまった。
悪気はないが、子どもたちは時に残酷だ。そんな数秒の出来事で、みんなからの視線が豹変した気がした。
次の日には、コソコソと自分が笑われている気がした。性格的に笑ってもらうことはずっと好きだったが、こういう嘲笑的な辱めを受けるのは人生で初めてだったので、顔が思わず引きつってしまった。今度はそれが気になってしまい、周りと話したくなくなる。
「違う。こんなに暗くない。俺はみんなが思っているような、つまらない人間でも、とっつきにくい人間でもないんだ」
もちろんそんな心の叫びは誰にも届かない。白いカッターシャツに染みついたカレーのように、15歳の彼ら彼女らのまっさらな心にこびりついた“変な人”という印象は、何度洗っても取れなくなってしまった。学校という場所におけるいじめは、こんな些細なことで始まるのだ。
しかもいじめは複雑で、誰もがうっすら気づいている「なんとなくの空気」、これこそがいじめの正体だ。この空気こそが子どもたちをいじめへと突き動かす正体である。そして、ついに物理的な行動に導
みちびいてしまう出来事が起きた。
ある日、登校して教室に入ると、イシカワの机がひっくり返っていたのだ。
実行犯が後ろで笑いをかみ殺しながらこっちを楽しそうに見ている男子4、5人のグループであることはすぐにわかった。もちろん偶然でも偶発でもなく、この行為はイシカワに向けてわざと仕掛けられている。イシカワがひっくり返った机を持ち上げて戻すと、そのグループはフッと鼻で笑っていた。くだらなさすぎてそのときはなんとも思わなかったが、次の日もその次の日も、机が逆になっていた。それを戻してから、椅子に座る。
想像してほしい。地味ないじめだが、周りの女子や男子たちも、それを黙認しているわけで、その空気がキツい。やられていること自体はたいしたことはないが、クラス全体がそれを見て見ぬふりをして、黙認していることがショックであり、とても恥ずかしい思いへとつながる。みんなが共犯者になり得るのだ。主犯格と思われるその4、5人の男子グループの顔に目をやると、その顔は満足げにも見えた。
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