今年見逃せない一本『オデュッセイア』古代ギリシャ神話の専門家がノーランの“仕掛け”を解説

2026/09/19 17:44 

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映画『オデュッセイア』(公開中) photo by Melinda Sue Gordon (C)Universal Studios. All Rights Reserved.

 11年ぶりの5連休となった今年のシルバーウィーク。まとまった休みに楽しめる新作として注目したいのがクリストファー・ノーラン監督の『オデュッセイア』だ。

【動画】字幕・吹替監修を手掛けた藤村シシン氏による解説動画

 公開初日の9月11日から13日までの3日間で観客動員24万775人、興行収入4億5171万780円を記録し、興行収入ランキングでは『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』を上回って初登場1位を獲得した。

 9月4日から10日までに実施された先行上映を含めた累計成績は、動員32万9268人、興行収入6億5038万1140円。長編映画として初めて全編をIMAXフィルムカメラで撮影した本作は、IMAX上映にも観客を集め、公開週末3日間の全動員に占めるIMAXの割合は34.5%、興行収入では43.2%に達した。公開翌週に入ってからも、都内のIMAX上映館では平日を含め満席となる回が相次いでいる。

 海外では7月の公開以降、興行記録を更新。9月14日時点の全世界興行収入は16億8000万ドル(約2722億円、1ドル=162円換算)を突破し、2015年公開の『ジュラシック・ワールド』を抜いて、ユニバーサル・ピクチャーズ作品の歴代最高記録を更新した。今、見逃せない一本であることは間違いない。

 ホメロスによる叙事詩を映像化した本作は、トロイア戦争を終えたオデュッセウス(マット・デイモン)が、愛する家族の待つ故郷を目指す10年にわたる旅を描く。行く手には神々の介入や怪物、荒れ狂う海など、幾多の試練が待ち受ける。

 ノーラン監督は、約3000年にわたって語り継がれてきた物語について、愛や喪失、戦争、ロマンスといった「物事の本質」が描かれていると分析。「長期間故郷から引き離され、何としてでも帰ろうとするオデュッセウスの姿には誰もが共感できる」と語っている。

 主人公についても「オデュッセウスは複雑な人物で、ある意味、不完全でもある。欠点のある人物の方が、人は共感できると思うんだ。誰にでも欠点はあるからね。スーパーヒーローではなく、自分を映し出せるようなキャラクターを誰もが求めている」と、映画化した狙いを明かしている。

 作品を象徴する場面の一つが「トロイの木馬」だ。本作では、車輪が付いた一般的な造形ではなく、「女神アテナへの供物として波に打ち上げられた」という設定を採用。高さ約10メートルの木馬を実際に複数制作し、数千人のエキストラを動員して海岸で撮影した。

 実はノーランが映画『トロイ』(2004年)の監督候補に挙がっていた頃から温めていた念願の構想であり、「トロイアのシーンでは、フィジカルな演技が求められた。派手な戦いで、何千人ものエキストラが参加していたし、炎などあらゆることが同時に起きていた」と撮影を振り返っている。

 ノーラン監督は日本の観客に向け、「エンターテインメント作品として『オデュッセイア』をぜひ体験しに来てほしい。史上最高の冒険物語だと思うし、多くの人が感動して興奮できるような内容に仕上がっている。とにかく楽しんでもらいたい」とメッセージを寄せている。

 本作を共同配給するビターズエンドの公式YouTubeチャンネルでは、本作の字幕・吹替監修を手掛けた古代ギリシャ神話・歴史専門家である藤村シシン氏による特別解説動画も公開中。

 前編の動画の中でシシン氏は、「なんて面白いことをやるんだ、ノーラン監督は!」「物語の原点に来てくれましたね!お待ちしておりました!」と破顔一笑で大絶賛。すべての物語の原典にして西洋文学の金字塔『オデュッセイア』が、2800年前の誕生当時から「回想」や「時間の切り貼り」といった時間操作や「リアリティラインの曖昧さ」を備えていた点に着目し、時間を巧みに操るノーラン演出との運命的なシンクロを熱く語っている。

 シシン氏の解説は、映画冒頭に映し出されるわずか1行のテロップから、早くも深い考察へと踏み込んでいく。映画『トロイ』や「スターウォーズ」シリーズなどでも見られる冒頭のテロップ演出は、「この映画はどういう風に作られたか」の意思表明として、古代ギリシャ文学などでも用いられる手法らしい。テロップ演出といったところからもノーラン監督のこだわりを感じられる。

 また、映画の中で神々を「雷や荒れ狂う海など巨大な自然現象」として表現する手法について、古代のリアルであり日本の八百万の神にも通じると分析。字幕監修においても、「信じる」という言葉へ「信仰ではなく自分以外の存在への信頼」という意図が込められていたという裏話を披露するなど、ノーラン監督の徹底的なこだわりをひも解いていく。

 そして、原典「オデュッセイア」で実際にオデュッセウスが渡った島々の航海図について、劇中であえて地図を示さず雪が舞う北国の風景等で見せることで、航路を失った主人公の絶望的な迷子感を観客自身に体感させたノーランの演出術を「見事な英断!」と絶賛している。

 後編では、原典の物語と、紀元前に起きた文明崩壊という歴史的背景を重ねた本作の多層構造を解説。藤村氏は、その構成を「『源氏物語』を描きながら、裏で平安時代の史実を同時に進めているようなもの」と日本の文学になぞらえる。

 さらに、原典のオデュッセウス像を現代的に再構築した夫婦の描写や、原典の“ある有名な記述”をノーラン監督がわざわざ修正したというマニアックな隠し要素(イースターエッグ)の存在、さらには「もしあの時アガメムノンについて行ったら……?」というファンなら誰もが気になる“まさかのゲームオーバー説”についても紹介。

 藤村氏は「あまりにもうますぎる。めちゃくちゃ新しいことをやっている」とノーラン監督の手腕を評し、「1回観た人、2回観た人、何回観ても新しい発見がある」と語っている。

 鑑賞後に観れば「あのシーンにはそんな意味があったのか」と納得し、未見の人にとっても、映画の背景にある壮大な物語のすごみを知る絶好のガイドとなる動画となっている。


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