夏の定番に変化? “手間抜き”発想で「冷やし中華」から「冷やしラーメン」へシフト、家庭の食…
ゆず香る鶏だし塩の冷やしサラダラーメン(写真提供:ミツカン)

【写真】冷しゃぶにイタリアン風も…冷やしラーメンアレンジ
■家庭でも高まる“冷やし麺”需要、作り手にかかる「冷やし中華」の負担も…
もともとは山形県や福島県(喜多方)のご当地麺として知られていた「冷やしラーメン」だが、近年は猛暑の長期化を背景に、東京を中心とした有名ラーメン店が夏の限定メニューとして導入。さらにコンビニ各社がチルド商品を展開したことで、「スープまで冷たいラーメン」というスタイルが一気に一般層にも広がった。最近では、家庭でもインスタント袋麺などを使ったアレンジレシピがSNSで話題となり、“家でも冷やしラーメンを楽しみたい”という需要が高まっている。
「冷やし麺の需要は年々増加している」と語るのは、ミツカンで商品開発を担当する中條博明さんと、現在『冷やしラーメンのつゆ』を担当する池口賢太朗さん。その背景には、「猛暑・酷暑の増加と長期化」だけでなく、「令和の米騒動による麺需要の高まり」、さらには「コロナ禍以降、一皿で栄養が取れ、満足感のあるワンプレート料理や、コスパやタイパに優れた簡便なメニューが人気となっていること」があるという。
しかし、“冷たい中華麺”といえば、日本では夏の風物詩として浸透している「冷やし中華」が存在する。では、「冷やしラーメン」といったい何が違うのか?
「冷やし中華は、きゅうりやハム、錦糸卵など“定番の具材”まで含めてイメージされやすいメニューです。そのため、家庭で作る際も、どうしてもその形に寄せようとして、具材を細く切ったり、錦糸卵を用意したりと、意外と手間がかかりやすいと思います。一方、“冷やしラーメン”は通常のラーメンと同じく、具材もスープも自由度が高い。冷やし中華と違って、具や味の固定感がないのが特徴です」(中條さん)
たしかに、「冷やし中華」と聞くと、味だけでなく具材まで含めた“完成形”を思い浮かべる人は多い。裏を返せば、そのどれかが欠けただけで「それはもう冷やし中華ではないのでは?」という感覚も生まれやすい。冷やし中華は、長年の定番であるがゆえに、具材込みで“こういうもの”というイメージが強く固まっているメニューなのだ。
一方、「冷やしラーメン」にはその固定感がない。同社から今春発売された『冷やしラーメンのつゆ ゆず香る鶏だし塩』のラベルには、唐揚げ、レタス、トマトが載った写真が使われているが、実際、好きな具材をのせられ、冷凍食品でも成立する。具材を細切りにしなければならない冷やし中華ほどの手間がかからず、手元にある食材を活用しながら、肉も野菜も麺も一皿で取りやすい。作り手にとっては負担を抑えやすく、食べる側にとっても満足感を得やすい。家族で囲む夕食の一品として、子どもも含めて取り入れやすい点も、「冷やしラーメン」が家庭に浸透しつつある背景にありそうだ。
■子どもでも食べやすい酸味へ 家庭向けに探った“ちょうどいい一杯”
ただ、こうした“自由度の高さ”こそが、商品化にあたっては難しさにもつながった。「冷やし中華」のように完成形のイメージが共有されているメニューではないからこそ、まず悩んだのは「これを何と呼ぶか」だったという。
人気が高まっているとはいえ、「冷やしラーメン」というメニューはまだまだ日本全国に周知されているとは言い難い。山形県や福島県では70年以上前から冷たいスープに浸かったラーメンが「冷やしラーメン」の名で存在していたが、同じ形態ながら、新潟県には「冷丼」と呼ぶ地域があったり、北海道では「冷やし中華」のことを「冷やしラーメン」と呼び、サラダの中にラーメンを入れた「ラーメンサラダ」も存在する。
「冷やし中華ではないけれど、冷やし中華のようにも食べられる一杯を何と名づけるかは、かなり議論になりました。地域によって呼び方も異なる中で、最終的には生活者にとって最もわかりやすい“冷やしラーメン”に決まりました」(池口さん)
そんな「冷やしラーメン」のつゆを開発するにあたり、もっとも重視したのは「外食のようなクオリティを、家族全員で自宅でも楽しめること」だったという。
目指したのは、さっぱりしていながらも満足感のある味わいだった。アクセントには、日本人になじみがあり、夏らしさも感じられる「柚子」を採用。コクのベースとなるスープには牛だしも候補に挙がったが、牛特有の香りや甘く重たい油のニュアンスは、満足感は出しやすい一方で、求めていた“さっぱり感”とはやや異なる。そこで、すっきりとした後味を保ちながらも、しっかりとした飲みごたえを演出できる鶏だし塩を選んだ。
「苦労したのは、酸味とコクのバランスです。酸味が強すぎると食べづらく、弱すぎると次の一口に進みたくなるさっぱり感や味のメリハリが損なわれてしまいます。落としどころを探るため、小さいお子さんを持つ社員も含め、多くのスタッフによる試食を重ねながら、家庭向けの“ちょうどいい一杯”を探っていきました」(池口さん)
ちなみに同社では今年、ロングセラー商品の『冷やし中華のつゆ』もリニューアルしている。市販の冷やし中華には塩味が強いものも多い中、ミツカンの商品は「甘み・酸味・塩味のバランスが良い」と評価されてきた。そこで今回は、そのバランスを崩さず、さらにおいしさを高める方向で見直しを行ったという。
■「麺を夕食に出すなんて」を解決? “手間抜き”発想で広がる夏の新たな選択肢
同社が販売する『冷やし中華のつゆ』と『冷やしラーメンのつゆ』は、いずれも麺とセットではなく、つゆだけのボトル商品として展開されている。市販の冷やし中華のように、麺とつゆが一体になった商品も多い中、あえてボトルにしているのは、家族で囲む食卓を強く意識しているためだ。
「家族で食べる場合、お父さんとお母さん、子どもでは、麺の量も具材の量も違いますし、味の濃さの好みも異なります。具材の種類によって、欲しいつゆの量も変わってきます。だからこそ、それぞれに合わせて調整できるボトルの形が合っていると考えています」(中条さん)
とくに「冷やしラーメン」は、「冷やし中華」のように“この具材でなければならない”という固定感がない分、家庭ごとに完成形が大きく変わる。肉をしっかりのせる家もあれば、野菜を多めにのせる家もある。冷凍食品や作り置きを活用して手軽に済ませたい日もあれば、少し豪華に一皿で完結する夕飯にしたい日もある。そうした違いに合わせてつゆの量を調整できるボトルタイプは、冷やしラーメンの自由度の高さとも相性がいい。
こうして少しずつ家庭のメニューとして存在感を増してきた「冷やしラーメン」だが、一方で、まだまだ「麺を夕飯に出すなんて」と受け止める声もあるそうだ。背景には、麺料理は“手軽に済ませるもの”というイメージもあるのかもしれない。だが、たとえば「冷やし中華」は、食べる側には満足感があっても、きゅうりや錦糸卵など具材を整える手間がかかり、作り手にとっては負担もある。
その点、「冷やしラーメン」は手元にある食材を活用しながら、肉も野菜も麺もワンプレートにまとめやすい。手間は減らしつつ、食べる側の満足感はしっかり残す。そんな“手間抜き”の発想にもフィットするメニューとして、夕飯に麺を出すことへの見方そのものを少しずつ変えていく可能性もありそうだ。
同社では、「冷やしラーメンを単なる“変わり種”ではなく、冷やし中華と並ぶ夏の新たな選択肢として育てていきたいと考えている」という。
「冷やしラーメンが家庭の夕飯メニューとして浸透していって、ゆくゆくは『私は冷やしラーメン』『私は冷やし中華』と、その日の気分や好みに合わせて選ぶのが当たり前になればと思っています」(池口さん)
冷やし中華の代わりではなく、もうひとつの夏の定番として広がっていく冷やしラーメン。作り手にも食べ手にもメリットがあるからこそ、今後さらに家庭の食卓で存在感を高めていきそうだ。
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