是枝裕和監督、『箱の中の羊』韓国イベントで創作論語る ヒューマノイドと人間の違いは「それほ…
韓国・ソウルのCGV龍山アイパークモールで開催された映画『箱の中の羊』のイベントに登壇した是枝裕和監督(右)、進行役を務めたイ・ジュヨン(左)

【画像】『怪物』の子がヒューマノイドのリーダーに
本作は是枝監督によるオリジナル脚本作品。“少し先の未来”を舞台に、亡くした息子と同じ姿をしたヒューマノイドを迎え入れた夫婦の姿を描くヒューマンドラマ。イベントで是枝監督は、作品に込めた思いや撮影秘話、AI時代における“人間らしさ”について語った。
冒頭、イ・ジュヨンは「いったいどうして私にこんな幸運が訪れたのでしょうか。今日は私自身の話はできるだけ控えめにして、監督とのお話を中心に進めていきたいと思います」とあいさつ。是枝監督も「こんなにたくさんお越しいただきありがとうございます。何より、一緒に映画を作ったキャストやスタッフと再会できるのがご褒美(ほうび)のような時間です」と韓国の観客との再会を喜んだ。
トークでは、柊木陽太が演じたヒューマノイドのリーダー・今野詩季(たくと)について話題に上った。イ・ジュヨンは「ヒューマノイドたちのリーダーなのか、それともヒューマノイド側から見た“人間”なのか、その立ち位置があえて曖昧(あいまい)に描かれているように感じた」と印象を語り、「柊木さんにどのような説明や演出を行い、役づくりの過程でどのような対話を重ねたのかが気になる」と質問した。
これに対し是枝監督は、「詩季はヒューマノイドという設定ですが、翔にとってはメンターのような存在として登場してほしいと伝えていました」と説明。「ラストシーンでは、誰が生きていて誰が死んでいるかも関係なくなり、機械と自然が一体化していくことで、いろんなものの境界線が曖昧になっていく世界をイメージしていました。その象徴が詩季です」と明かした。
また、本作の舞台となった大船周辺の街並みや、音々(綾瀬はるか)と健介(大悟)が暮らす家についても言及。「建築家が自ら設計して建てた家」をイメージしてロケ地を探したといい、「決め手は柵のない渡り廊下でした。実際に住んでいるお子さんがそこで絵を描いて過ごしていると聞き、その時ちょうど後ろを電車が通って音が聞こえてきた。それがすごく良いなと思って決めました」と振り返った。
さらに、「あの家は基本的に音々が設計した家で、健介の趣味ではありません。健介がこだわったのはヒノキのお風呂だけ。そういう夫婦の棲み分けを意識していました」と、住空間にも登場人物の関係性を反映させたことを明かした。
観客とのQ&Aでは、ヒューマノイド・翔役を演じたくわ木里夢のキャスティングについても質問が寄せられた。
是枝監督は「第一印象でした。部屋に入ってきた瞬間に『この子だな』と思いました」と振り返りつつ、「実際には5回ほどオーディションを重ねました」と説明。「子どもだけのシーンやお母さんとのシーンなど、さまざまなパターンを試しました。最後は映画後半のお風呂場のシーンを、大悟さんにも来てもらって一緒に演じてもらいました」と明かした。
また、「あの年齢の男の子は日によって集中力にムラがあるものですが、里夢くんはとても安定していました。コミュニケーション能力も高く、子どものシーンでも大人とのシーンでも本当に上手でした」と絶賛した。
さらに撮影現場での秘話として、「綾瀬さんと大悟さんがとてもフランクな方だったので、撮影の合間も3人で本当の家族のように過ごしていました」と回想。「ある日ふと見ると、里夢くんが大悟さんの頭をずっと撫でていたんです。それを見て『これはいいな、撮りたいな』と思い、ラストの森のシーンで翔が健介の頭を撫でる場面を書きました」と語り、会場を沸かせた。
また、ヒューマノイドの“心”をどのように描いたのかという質問に対しては、AI研究者への取材から得た着想を紹介。「ヒューマノイドが自意識やアイデンティティを持つことはあり得るのかと聞いたところ、『プログラムすれば搭載できます』という答えでした」と振り返った。
その上で、「個々のロボットに心を持たせるという発想ではなく、彼らが集団を作り社会を形成した時に、社会全体として意思を持つことはあり得るかもしれないと言われたんです。それがとても面白かった」と説明。「個々の中に心があるのではなく、誰かと誰かの間に生まれるものだとしたら、とても美しいことだと思いました。もしかしたら人間も同じなのではないか。人は一人では感じられないものを、誰かと関わることで初めて感じられるのかもしれません」と語り、「ヒューマノイドと人間の違いはそれほど大きくないのではないかと考えました」と作品に込めた思いを明かした。
イベント終盤には、翌日に誕生日を迎える是枝監督へのサプライズ企画も実施され、会場全体が祝福ムードに包まれた。
最後に是枝監督は、「ヒューマノイドと人間を分けるものは何なんだろうと考えながら、この映画を作りました」と改めて作品のテーマに言及。「僕が気に入っているのは、音々と健介が最後まで完全にわかり合うわけではないところです」と語った。
そして、「『もう少し翔と一緒に暮らしたい』と言う音々に対して、健介は『俺もそう思ってた』ではなく、『それでええんちゃうん?』と返す。『私たち捨てられたんだよね』という言葉にも、『親はみんなそういうもんちゃうか。知らんけど』と答える。その『知らんけど』がいいんです」と笑顔を見せ、「それくらい曖昧で、少しずれた距離感のほうが人間同士はうまくいくのかもしれない。そういう微妙なずれこそが、人間の持つ優しさなのではないかと思っています」と語った。
「そんな映画をこれからも作り続けたいと思います」と締めくくると、会場からは大きな拍手が送られた。
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