日本でも活況を得る「応援広告」の現在地 “純粋な応援”が動かす経済効果と企業意識の変化
ジェイアール東日本企画運営の「Cheering AD」の駅構内広告

【写真】ファンが4ヵ月前から作成…JO1・川西拓実の誕生日広告
◆ファンが主役の広告代理店システムと、広がる掲出のバリエーション
――まずは応援広告事務局「Cheering AD(チアリングアド)」の仕組みについて教えてください。最近、様々な場所で耳にしますが、どのようなシステムなのでしょうか。
「『Cheering AD』は、交通広告をファンが『応援広告』として購入できるECサイトです。ファンの代表者がサイトを通じ、主に『誕生日』『イベント開催』『周年』のお祝いとして申し込みます。私たちは広告代理店として、JR東日本や各媒体社様との間に入ります。日本での最大のハードルは著作権や肖像権です。そこで私たちがファンに代わり、事務所への許可取りやデザイン確認を行うスキームを構築しました。最近は事務所の公式サイトから『応援広告はCheering ADへ』と誘導いただくケースも増えています」
―― 一般の方が広告を出すにあたり、誰でも自由に出せるわけではなく、一定の規定や線引きがあるのでしょうか。
「駅や街なかの広告は公共性が高いため、誰でも自由に出稿できるわけではなく、一定の基準があり、応援広告は、『任意のファン団体』として申請していただく必要があります。審査としては、団体名や連絡先があるか、活動内容を発信するためのSNSがあるか、過去の活動実績があるかなどを確認させていただきます。『1人ではできません』というルールがあるので、構成人数も確認し、ファンクラブに入っているかどうかではなく、グループとして責任ある活動をしている団体かどうかを判断しています。一方、事務所に所属している方に限るなど、『推し』側にも規定があります」
――掲出場所としては駅のポスターなどが一般的ですが、他にはどのような形の応援広告があるのでしょうか。
「分かりやすい交通広告だけでなく、実は『付箋(ふせん)広告』を日本で最初に作ったのも私たちです。韓国では広告にメッセージを書いた付箋を貼るのがスタンダードですが、日本では勝手に貼ることはNGです。そこで、公式に付箋を貼れるオリジナルメニューを作りました。最近は新聞、テレビCM、映画館など媒体も多様化しています。ユニークな例では『ひらかたパーク』の遊園地ジャックや、観覧車のゴンドラへの掲出も人気です。また、日本初の飛行機ラッピング広告は、約1500人のファンが700万円ほどの費用を集めて実現し、大きな反響がありました」
◆推計市場規模は769億円 「純粋な応援」が動かす経済と意識の変化
――広告というと本来は商品の売上や認知拡大が目的ですが、応援広告の出稿主であるファンの方々のモチベーションはどこにあるのでしょうか。
「『純粋に応援・お祝いしたい』『推しを多くの人に知ってほしい』という気持ちがほとんどです。Web全盛にあえて交通広告を選ぶのも、人通りの多い場所で認知を広げたいからです。重要なのは広告の『サイズ』ではありません。ファンが『ここに出した』とSNSで発信し、それを見た人が現地へ行き、撮影して拡散することでインプレッションが爆発的に伸びます。サイズに関わらず、そこが『聖地』となり熱量が高まります」
――現在の日本における応援広告の市場規模はどの程度なのでしょうか。
「私たちの調査による推計データでは『ポテンシャル市場』として約769億円と算出しています。これは『応援広告を出してもいい』という意向がある人と、その許容金額を掛け合わせたものです。推し活の市場規模が約8000億円と言われていますので、その約10%に相当します。また、日本の交通広告費全体の約18%にあたる規模感です。毎年3月に調査データを発表しているのですが、肌感覚としてこの769億円よりも実際の動きは大きくなっており、今後さらに市場は拡大していくと考えています」
――BtoB(企業)とBtoC(ファン)で、広告枠の価格に違いはあるのでしょうか。
「基本的には企業が出す場合と同じ金額です。一部の屋外ビジョンなどで、企業よりも取り組みやすい『応援広告価格』を設定しているケースもありますが、全体の10%未満です。広告の申し込みは大体掲出の4ヵ月前から始まるのですが、最近は企業よりもファン団体の方が、動きが早いんです。推しの誕生日に向けて半年ほど前から準備されているので、4ヵ月前になった瞬間に申し込まれます。人気の枠は企業との取り合いになることもありますが、企業よりもファンの方の動き出しが早いため、良い枠をファンが押さえているという状況も生まれています」
◆事務所との権利交渉への理解も 企業広告にまで波及した「応援広告風クリエイティブ」
――著作権や肖像権の課題について、事業開始当初と比べて変化はありますか? また、アニメやキャラクターなどの2次元コンテンツでの実施状況はいかがでしょうか。
「サービス開始当初は事務所の許可取りに難航しましたが、現在は約70のIPと提携し、公式素材の提供や許可をいただけることが増えました。VTuberやゲームキャラなどの2次元コンテンツも増加しており、漫画やアニメに関しては、出版社側の規定などもありハードルは高いのですが、作家の了承により実施できるケースも出てきました。例えば、二次創作ではなく作家のイラストを使用した広告の事例も少しずつ増えています」
――応援広告の盛り上がりが、既存の企業広告に与えている影響はありますか。
「非常に大きな影響があると思います。例えば、以前はあまり稼働していなかった媒体が、応援広告で人気が出た例などもありました。ファンが写真を撮ってSNSで拡散することで媒体自体の価値が上がり、今ではエンタメ企業の公式広告が入る人気媒体になっています。また、企業側が『応援広告風クリエイティブ』を採用するケースも増えています。ファンが作ったようなデザインや、付箋広告の手法を映画のプロモーションに取り入れるなど、企業広告のデザインや手法自体が変化してきています。企業側も『ここに出しました』と広告の掲出場所をSNSで発信し、ファンに見に来てもらう行動を促すなど、応援広告の文化が一般の広告にも波及しています」
――多くの人が集まることによるトラブルや、掲出物の盗難などの懸念はないのでしょうか。
「盗難などのトラブルは、これまで当社でお手伝いさせていただいた応援広告では、今までありません。通行の妨げにならないよう注意喚起を自ら発信してくださいます」
◆国境を越える推し活と「応援広告巡り」を通した地域活性化への新たな可能性
――海外での応援広告の事情や、海外ファンからの日本への出稿について教えてください。
「海外、特に韓国や中国、タイなどの東南アジアでは応援広告はスタンダードな文化です。ニューヨークのタイムズスクエアなどは『聖地』として非常に人気があります。弊社でも海外7ヵ国の媒体を取り扱っており、日本にいながら海外に広告を出すことも可能です。逆に、海外のファンが日本に広告を出すケースも増えています。サイトの多言語化を進めた結果、毎月定期的に海外からのお申し込みがあります。『推しがいる日本で出したい』という需要が高く、日本のアーティストやVTuber、アニメのファンが、推しの活動拠点である日本に広告を出稿されています」
――この事業を始めるにあたり、社内での理解を得るのは大変だったのではないでしょうか。
「私自身がK-POPファンで『応援広告』に馴染みがあり、日本でも実現できないかと模索しました。当初は社内でも『仕事に趣味を持ち込むな』といった風習があり、理解を得るのは大変でした。媒体社様やIP元の方々に対しても、『ファンがお金を出す』という仕組み自体が理解されにくい状況でした。しかし、協力会社や媒体社様の中にも『推し活』をしている方がいて、そういった方々の共感や協力があったからこそ実現できたと感じています。まさに『推しがいると話が早い』という状況もありました」
――今後の展望をお聞かせください。
「地域活性化との連携に可能性を感じています。現在でも『応援広告巡り』は推し活の一環となっており、推しの誕生日に広告を見るために地方から東京に遠征したり、逆にライブツアー先の地方に応援広告を出して、そこへファンが集まったりという動きがあります。
例えば、先日は人気ゲームの周年イベントに合わせて大阪で約30箇所もの応援広告が掲出され、ライブ前後にファンが各地を巡るという現象が起きました。今後はスポーツチームなどとも連携し、応援広告をきっかけに人が動き、地域全体が盛り上がるような仕組みを作っていきたいと考えています。ファン、アーティスト、媒体、そして地域が互恵関係を築ける最適な広告として、さらに文化を広げていきたいです」
(文/磯部正和)
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