『仮面ライダーゼッツ』初の“胸に巻く”変身ベルトはなぜ生まれた? 世界を見据えた原点回帰【…

2025/12/14 07:40 

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『仮面ライダーゼッツ』(C)2025 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

 現在放送中の特撮ドラマ『仮面ライダーゼッツ』(毎週日曜 前9:00、テレビ朝日系)。その最大の特徴は、シリーズ史上初となる斜め掛けの「胸に巻く変身ベルト」だ。変身シーンとベルトはシリーズの象徴であり、その変更は「テレビドラマの制作者としての英断」と「玩具としての挑戦」を意味する。さらに、本作は日本のみならず世界同時期配信という新たなステージへ踏み出した。東映・映像企画部・企画製作室プロデューサーの谷中寿成さんと、バンダイ・トイ事業部・企画チームの光岡祐希さんに、制作の裏側と本作に込めた「世界展開」への想いを対談で聞いた。

【写真】胸のベルトがカッコいい!今井竜太郎のスタイリッシュな変身シーン

◆世界を見据えた原点回帰で“新しい1号”を…腰から胸にあえて伝統を変えた変身ベルト

 『仮面ライダーゼッツ』は、現実世界では冴えない日常を送る主人公の万津莫(よろず ばく)が、明晰夢(夢を自覚し、思い通りに操れる能力)の力を持ち、夢の中で秘密組織「CODE」から変身ベルト「ゼッツドライバー」を与えられ、夢の中では無敵のエージェントとなって活躍する物語。

 シリーズ史上初めて“腰”ではなく“胸”に装着する変身ベルトと、スタイリッシュな変身シーンが、「スーツ装着じゃなく肉体変化なのも最高」「腰に巻かない斜めがけ変身ベルトが斬新!」などと話題になり、SNSの世界トレンド1位に。また、玩具の変身ベルトはベルト中央のバックルだけなく、帯含めたベルト全体が超発光し、そのギミックに高い評価を得ている。カプセル型のアイテムを入れ替えることで、様々な「発光」と「音」の変身・フォームチェンジ遊びが楽しめる。

――『仮面ライダーゼッツ』の立ち位置と、企画のスタート地点について聞かせてください。

【東映・谷中さん】 『仮面ライダー』シリーズは、関係各社による安定したチームで毎年制作しています。その中で今回は、弊社の中長期ビジョン『To the World, To the Future-「ものがたり」で世界と未来を彩る会社へ-』と、バンダイさんの海外展開への意欲が合致し、「世界へ打ち出していく」という共通目標からスタートしました。スーパー戦隊シリーズが『パワーレンジャー』として海外で定着しているのに比べ、『仮面ライダー』はまだ挑戦の余地があります。そこで、世界に向けた「新たな1号ライダー」を作ろうというコンセプトが固まりました。

――世界展開を意識する上で、どのような点を重視したのでしょうか。

【東映・谷中さん】 「『仮面ライダー』とはどういうヒーローか」を認知してもらうことです。前作の『仮面ライダーガヴ』はお菓子モチーフで、非常にポップで人気でしたが、予備知識のない海外の方には「お菓子のヒーロー?」と思われてしまう恐れもありました。今回は原点回帰し、シンプルに「かっこいいヒーロー」であることを提示しようと考えました。

◆開発期間は倍以上、常識を覆す玩具への挑戦 子どもから大人まで幅広い層にフィット

――その象徴が、シリーズ初となる「胸にかける変身ベルト」ですね。これまでの「腰のベルト」という伝統を変えることに迷いはなかったのですか。

【東映・谷中さん】 「新しい1号」として話題となるフックを考えていた企画段階で、デザイナーさんから「胸に巻いてみてはどうか?」というラフ画を見せていただいたんです。それが理屈抜きでとにかくかっこよかった。「これは話題になる」という計算よりも、単純に「かっこいいからこのアイデアに乗りたい!」という直感が一番でした。

――長年のファンからは「ライダーといえば腰ベルト」という意見もあったのでは?

【東映・谷中さん】 どう受け止められるか未知数な部分はありました。しかし、カラーリングで「1号」をオマージュしていたり、バイクもサイクロン号を彷彿とさせるデザインだったりと、トータルで見れば「間違いなく『仮面ライダー』だ」と感じてもらえるものになっています。結果として、ファンの皆様にも好意的に受け止めていただけて安堵しています。

―― 一方の玩具開発では、実現にはかなりの苦労があったのではないでしょうか。

【バンダイ・光岡さん】 おっしゃる通りです。“腰に巻く”ベルトのノウハウは長年蓄積されていますが、“胸に巻く”となると話は別です。安全性、装着のしやすさ、そして体格差への対応。特に今回は「世界展開」が前提ですので、日本だけでなく世界中の子どもから大人まで多くのお客様が楽しめるサイズ感や、調整のしやすさを徹底的に検証しました。通常の検証期間の倍近い、半年近くをかけて試行錯誤しました。

――具体的にどのような工夫をされたのですか。

【バンダイ・光岡さん】 まず素材です。ベルト帯は体にフィットしやすく、かつ怪我をしないよう、従来の硬い素材ではなく柔らかい素材を採用しました。また、サイズ調整には、ポリエステル製の帯を使用し、子どもから大人まで幅広く対応できるようにしています。さらに今回は、ベルトのバックルだけでなく「帯」部分も発光するのが特徴です。ベルト帯の横からLEDを照らし、全体が美しく光るよう何パターンも試作を重ねました。

――お話を聞いているとかなり難易度が高い商品だと感じたのですが、これまでのライダーベルトと比べると製作には時間が掛っているのでしょうか。

【バンダイ・光岡さん】 通常だと、複雑なギミックは置いておいて、大枠の構造などは2ヵ月ぐらいである程度検証しきれるのですが、今回は半年近く検証していました。

【東映・谷中さん】 今回は、海外展開を視野に入れていたため、制作ともどもかなり早くから企画が進められました。だからこそ、ここまで玩具の検証に時間が取れたというのはありますね。時間が短かったらやっぱり腰にしようってなっていたかもしれません。

◆腰から胸に変えたことで得た気づき…年々減っていたバイクアクションの復権にも

――完成品を見た時の感想はいかがでしたか。

【東映・谷中さん】 番組の撮影用プロップ(小道具)が先行して作られるのですが、実際に玩具の試作が上がってきた時、会議室を暗くして光らせてみて「おおーっ!」と歓声が上がりました(笑)。あの透明感のある輝きは衝撃でした。

【バンダイ・光岡さん】 帯の裏側を塗った方が発光が良く見えるかと思いきや、透明素材の方が綺麗に発光するというのも発見でしたね。また、胸に巻くことで生まれた予想外のメリットもありました。

【東映・谷中さん】 そうなんです! 今までの腰ベルトだと、バイクに乗った時にフロント部分に隠れてベルトが見えないことがありました。でも今回は胸にあるので、ライディングポーズでもベルトがバッチリ映る。「バイクとベルト」が1枚の画に収まるので、バイクシーンを撮るのが楽しくなりました。年々バイクシーンが減っていた中、これは映像制作側として嬉しい発見でしたね。

――「ガシャポン」を彷彿させるカプセル型のアイテムも特徴的ですね。

【バンダイ・光岡さん】 近年、国内外でガシャポン人気が高まっています。球体のカプセルをベルト装填して回すというギミックは、なじみのある形で、直感的に遊び方が伝わりやすく、海外の方にもイメージしやすいと考えました。胸の斜めのラインに沿ってカプセルを回すアクションは、人体の構造的にも自然で、決め技のポーズが決まりやすいよう調整しています。

【東映・谷中さん】 『仮面ライダーガッチャード』でのカードや『仮面ライダーガヴ』のお菓子などもそうですが、バンダイさんの事業部ごとのシナジーも、近年のトレンドとしてありますよね。

【バンダイ・光岡さん】 ガシャポンや食玩もそうですが、変身ベルトを軸にさまざまな事業と連動しています。バンダイの広い事業領域を活かして、“モノ”軸でタッチポイントを増やし、キャラクターや作品につなげていくことを意識しています。

――「胸に巻くベルト」だけでなく、主人公の設定もユニークですね。「夢の中では無敵だが、現実は無職」というのは現代的なアプローチにも感じます。

【東映・谷中さん】 平成ライダーの初期は、アイデンティティがまだ確立されていない青年が悩みながら変身するという成長譚が魅力のひとつでしたが、現代のコンテンツは「最初から強い」キャラクターが好まれる傾向にあります。そこで、夢の中ではスパイ映画オタクの知識を生かして無敵の活躍をするけれど、現実は不運すぎて働けないという二重構造にしました。子どもたちには憧れを、かつての平成ライダーファンだった大人には懐かしさを感じてもらえるよう、両方の要素を入れ込んでいます。

――今回は特に海外を意識して、ストーリーもシンプルにしているのでしょうか。

【東映・谷中さん】 登場人物を絞ることでシンプルにはしていますが、子どもはビジュアルやバトルを楽しみ、大人はミステリーや考察を楽しめるという「一粒で二度美味しい」作りを意識しています。変身シーンに関しても、これまで海外では、特に欧米のファンからは「スーツに着替えているだけでは?」という声もあったそうです。しかし今回は、「肉体が変化している」という生物的な描写を取り入れました。それにより「これぞ変身だ」と説得力を持って受け入れられているようです。

◆国境を越えた「2世代化」と同時期配信のシナジー 多様な文化圏で“子ども騙しではない”という評価

――今回は日本と海外の同時期配信(サイマル放送)も行われています。海外での反響はいかがでしょうか。

【東映・谷中さん】 手応えは非常に大きいです。これまではどうしても海外への展開にタイムラグがありましたが、今回は同時期配信によって世界中でほぼ同じタイミングで盛り上がりが作れています。SNSで「#ZEZTZ」と検索すると、ポルトガル語や英語の感想がリアルタイムで溢れています。

 先日、米・ロサンゼルスで開催された『L.A. Comic Con 2025』にバンダイさんと出展した際も、現地の熱気を肌で感じました。特に親子連れの方と交流できたのが印象的でしたね。かつて『パワーレンジャー』や『マスクド・ライダー』、『仮面ライダードラゴンナイト』を観ていた世代が親になり、子どもと一緒に楽しむようになってきている。「2世代化」が海外でも始まっていると実感しました。

――同時期配信は、玩具の展開にも影響を与えていますか。

【バンダイ・光岡さん】 はい。これまでは「番組は観られないけど玩具はある」、あるいはその逆という状況がありました。今回は放送を観て「かっこいい!」と思ったその足で、現地のショップで玩具を買える環境を作れました。同時期配信と同時展開のシナジーは数字にも表れていますね。

――国によって反応の違いなどはありますか。

【東映・谷中さん】 中国ではデザインのかっこよさと、演技の完成度への評価が高いですね。一方アメリカでは、先ほど触れた「肉体変化としての変身」のロジックや、シリアスなストーリー展開が「子ども騙しではない」と評価されているようです。多様な文化圏で、それぞれの視点で『仮面ライダーゼッツ』を楽しんでもらえているのは嬉しい限りです。

――最後に、今後の展開についてお願いします。

【バンダイ・光岡さん】 世界中の方に『仮面ライダー』というIPを好きになってもらうため、子どもから大人まで楽しめる商品作りを続けていきます。番組演出と玩具の連動についても、東映さんと密に連携し、作品の世界観をそのまま手元で楽しめる体験を提供していきたいです。

【東映・谷中さん】 『仮面ライダーゼッツ』は、世界への挑戦のスタート地点です。“胸に巻くベルト”という新しい試みも、バイクアクションの復権も、すべては『仮面ライダー』の魅力を最大限に伝えるため。テレビ放送と配信、そして玩具。すべてがリンクして、謎が解けたり新しい発見があったりと、噛めば噛むほど味が出る作品になっています。ぜひ世界中の皆さんに、それぞれの楽しみ方で愛していただければと思います。

(文/磯部正和)


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