名作に心を揺さぶる子役の名演技あり――『盤上の向日葵』坂口健太郎(主人公)の幼少期を演じた…

2025/11/03 12:00 

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映画『盤上の向日葵』(公開中)坂口健太郎演じる主人公の幼少期を演じた小野桜介 (C)2025映画「盤上の向日葵」製作委員会

 作家・柚月裕子の小説を原作とした映画『盤上の向日葵』が、10月31日より全国で公開されている。坂口健太郎と渡辺謙が共演し、人間の業や宿命を、将棋を通して描いたヒューマンミステリーだ。作品の中で静かな印象を残すのが、主人公・上条桂介(坂口)の幼少期を演じた子役、小野桜介だ。

【画像】少年時代の上条桂介(小野桜介)の場面写真

 物語は、とある山中で身元不明の白骨死体が発見されたことから始まる。手がかりは、死体とともに見つかった高価な将棋の駒。やがてその駒の持ち主が、将棋界に彗星のごとく現れた天才棋士・上条桂介であることが判明する。さらに、桂介の過去を知る重要人物として、賭け将棋で圧倒的な実力を誇りながら裏社会に生きた男・東明重慶(渡辺)の存在も浮かび上がり…。捜査が進むにつれ、桂介の知られざる過去が次第に明らかになっていく。

 桂介は、父(音尾琢真)のギャンブルと暴力にさらされながらも、将棋への情熱だけを支えに生きてきた。そんな少年時代を、表情の変化や静かな所作で丁寧に表現しているのが小野だ。

 アニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』で泰ちゃん(山内泰二)役を務めたほか、舞台『チ。―地球の運動について―』(ラファウ/シンガー役)、『未来少年コナン』、ミュージカル『チャーリーとチョコレート工場』(チャーリー・バケット役)、『ファインディング・ネバーランド』(ピーター役)などに出演。NHK大河ドラマ『光る君へ』にも登場するなど、舞台・映像の両分野で着実に経験を重ね、その演技力はすでに高く評価されている。

 本作では、その豊かな経験を背景に、幼き桂介の“魂の原点”を体現。坂口が演じる青年期の桂介へ自然に続く心情の流れを生み出し、作品全体のドラマに奥行きを与えている。

 小野の演技が際立つのは、せりふよりも“沈黙”にある。将棋盤を見つめる真剣な眼差し、家庭の中でふと見せる寂しさ、父をなお慕う純粋な心、自らの才能に気づく瞬間――。わずかな表情の変化で感情を伝え、幼さの中に宿る芯の強さを感じさせる。その静かな表現が観客の胸を打つ。

 桂介の才能を見抜く唐沢光一朗(小日向文世)との場面でも、その存在感はまったく引けを取らず、物語全体に哀愁と余韻をもたらしている。

 映画『誰も知らない』(2004年)の柳楽優弥や『万引き家族』(18年)の城桧吏、佐々木みゆなど、名作には常に心を動かす子役の存在がある。『盤上の向日葵』における小野桜介の演技もまた、作品の感情的な核を担い、物語に深みを加えている。坂口健太郎と渡辺謙が織りなす“盤上のドラマ”を支える、もう一つの名演に注目したい。
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