「泣いたら、黙るんだよ」長嶋茂雄さん現役引退伝えた“レジェンド”の金言 名場面を伝えてきた…

松本秀夫アナ (C)ORICON NewS inc.

【写真】数々の名シーンを伝えてきた松本秀夫アナ
■観光気分のはずが…まさかの公式戦実況デビュー トントン拍子での抜てきに反発も
――実況デビューは1987年7月、後楽園球場で行われたジュニアオールスターゲーム(現:フレッシュオールスターゲーム)中継でした。
その当時、毎年恒例でやっていたのですが、各局の若手やデビュー目前のアナウンサーが2イニングずつぐらい、お披露目実況みたいなことをやっていたんです。忘れもしない、1987年の7月24日だと思います。僕はスポーツに異動してきたのが7月1日だったので、本当に3週間後くらいにはすぐ実況を担当することになりました。
当時は促成栽培でしたね。指導役のアナウンサーの深澤弘さんが、ピッチャーの手からボールが離れた瞬間に「第1球投げました」ときちんと実況するのが基本中の基本だから、そこは絶対に間違えるなと教えてくださっていたんです。その深澤さんも中継でいらっしゃっていたので、そこは絶対間違えちゃいけないと、そこばかり考えながらやっていました。
――その2週間後には公式戦での実況デビューとなりました。
広島市民球場で行われた、広島東洋カープ対横浜大洋ホエールズ(現:横浜DeNAベイスターズ)ですね。上司からは「(中継は回ってこないだろうから)観光旅行のつもりで行って来い」と送り出されたはずが、本番で中継していた巨人戦の試合が早く終わった関係で、6回か7回くらいから放送することになりまして。森中千香良さんが解説をしてくださっていたのですが、なにせ観光旅行で…と上司も言っていたくらいなので、放送席にいるのは、僕と森中さんだけ。だから、森中さんが普段ディレクターがやるようにスコアをつけながら、会社と連絡を取って中継を届けるという状況だったんです。
当時の広島市民球場の第1放送席は一塁側にあって、右に飛ぶと打球が見えないんですよ。だから、僕が「打った!ライト線に飛びました」と言って、その先が見えないところを、森中さんが立ち上がって見て、小声で「フェア」と教えてくれたり、本当に助けていただきました。その実況で、スイッチヒッターの選手を認識していなくて「森中さん、先ほど右で打っていた選手が、この打席は左に入りましたね」って言っちゃったんです(笑)。森中さんは放送には入らないように僕を叱りつつも、明るい声色で「スイッチヒッターですからね」と解説をしてくれました(笑)。
――その後、ずいぶん早いタイミングで日本シリーズの実況も担当されたそうですね。
僕の前にスポーツアナウンサーとしてニッポン放送に入ったのが小野浩慈さんという方で、6歳上だったんです。そういった状況で僕が入ってきたこともあり、当時の上司の英断で「よし、早い段階から松本を使って、新しい血を入れていこう」と押し出してくれたんです。だけど、先輩方からしたら(歓迎できる話ではないから)「松本にやらせるのは、オレたちの生活権の侵害だ!」と抵抗した方もいらっしゃったそうです。僕は良くも悪くも、鈍感力が強いので(笑)、そういったプレッシャーを当時あまり感じることもなく、後日談として「こういうことがあったんだぞ」と聞かされました。
その当時、野球中継をやるにあたってもアナウンサーに「序列」のようなものがはっきりとあって、これくらいになったら巨人戦を担当することができるといったものがあったんですよ。僕は、そういった階段を数段飛ばしでさせてもらったので、そういった周囲の抵抗もあったのだと思います。
――大きな舞台で経験を積んでいくうちに、松本さんの型ができあがっていったのでしょうか?
それは、本当に深澤弘さんのおかげです。最初の段階から「コイツは、オレが育てる」という意気込みで、マンツーマンで基礎を作ってくれたんです。ただ、実況のスタイルについては、自由にやらせてくれました。今でも覚えている言葉があります。「いいか、お前はこれから、この土地にアナウンサーという自分の家を建てるんだ。オレがお前にしてやれるのは、家が建つ前の土地に転がってる石ころや釘とか、邪魔になるようなものを取ってあげることまでだ。その土地の上に、お前がどんな形の家を作ろうと、それはお前がやれ。だから、実況で笑いを取りたいと思ったなら、自分がやりたいようにやってみろ」。
それは本当に首尾一貫していて、僕が『ニッポン放送ショウアップナイター』のオープニングゾーンで「きょうは、深澤大先輩の実況です」と告知をしていた時のエピソードがあって。当時、深澤さんがしゃべる時に雨の試合が多かったので「神宮にはまたまた雨雲が近づいています。深澤御大がしゃべると、どうも今年は雨が多いんです。これがホントの“おんたい”低気圧です」なんてダジャレを、本人がいる前で言ったことがあって(笑)。そんなことを言っても、深澤さんは「また、お前は!」みたいなことを言いながら、ニヤニヤしてくれていました。
■深澤弘さんから愛ある叱責「自分で聴き直せ!」 2007年の日本シリーズ秘話も
――深澤さんから褒められたこと、逆に厳しくされたことで、印象に残っていることはありますか?
うーん、褒められたことは一度もないかもしれないですね。「まぁまぁだな」くらいのことは言われたことがあるかもしれないですが。逆にひどく怒られたことは、ありました。木戸美摸さんという、巨人のピッチャーからヘッドコーチなどを歴任された方がいて、その当時は寮長をやられていたかと思うのですが、僕が実況、木戸さんが解説という試合があったんです。木戸さんとは、これまで取材などを通して関係ができていたのですが、本当に温厚な方でして。それで、ちょっと放送中に木戸さんをけなすような物言いをしてしまったんです。僕なりの距離感で言ったつもりだったんですけど、放送が終わった後に、深澤さんから「おい、お前、きょうの放送はなんだ!偉そうに人をバカにしたようなこと言って、聴いてられなかったぞ!二度ときょうみたいな放送をやるなよ。もう一度、自分で聴き直せ!」と叱責を受けました。
木戸さんは、僕よりかなり年上の方だったので、今思えば、いくら親しくしていたとしても、そのような物言いをするべきじゃなかったし、そもそも番組を聴いているリスナーのみなさんはそういう普段の関係はわからないわけで。実況の技術的なことで怒られることは、それまでたくさんありましたが、そういう角度で怒られたことが初めてだったんですよ。だから、立ち直るまでしばらく時間がかかりました。深澤さんから「最低だ!」と言われましたから。
――深澤さんからの愛ある叱責だったのですね。
もうひとつ、まぬけな話もありまして(笑)。深澤さんが実況で、僕がベンチリポーターを担当していた時のことです。深澤さんが実況中に「実況は私、深澤弘。ベンチリポーターは松本秀夫アナウンサーです」と何度も紹介してくれていたのですが、当時、僕はまだ駆け出しで…。深澤さんのテンポいい実況の合間に入って、リポートをいれることができなかったんです。イメージで言うならば、大縄跳びに入れない感じですね(笑)。結果、一度もベンチからのリポートを入れることができず、中継が終わった後に、深澤さんから「お前の名前を何回も出しているのに、1回も出てこなかったじゃねーか!」って怒られました(笑)。
――松本さんといえば、2005年のパ・リーグプレーオフで、千葉ロッテマリーンズが福岡ソフトバンクホークスを破り、31年ぶりの優勝を決めた際の“号泣実況”が語り草となっています。
1988年ぐらいにロッテ担当になったのですが、当時入ってきた選手たちと、年齢が近いこともあって、よく一緒に飲みに行ったこともありました。道は違えど、いわば、同じように歩んできた選手たちが優勝を決めて抱き合って泣いている姿を見て、ついついもらっちゃったんですね。こうして、思い入れのある同世代の人たちが優勝した瞬間を実況できるのは奇跡だなと。当時の解説は、田尾安志さんと板東英二さんのお2人でしたが、号泣する僕を見て呆れていて、まったく言葉を発さないんです(笑)。板東さんは、しばらく経ってから「アナウンサーと球団が癒着しとるんやって、初めて知りました」とおっしゃっていました(笑)。
――もちろん、この実況も深澤さんは聴いてらっしゃいましたよね?
「お前が泣いてどうする!」って言われました(笑)。深澤さんは、長嶋茂雄さんの現役引退セレモニーの実況を担当されていたのですが「長嶋が泣いています、ジャンボスタンドも泣いています」という名フレーズも残されているんです。だから、僕が「深澤さん、あの時泣かなかったんですか?」と尋ねたら、深澤さんが「泣いてたよ。泣いたら、黙るんだよ」と返ってきました(笑)。改めて、当時の音源を聴いてみると、たしかに深澤さんは余計なことを言わずに伝えながら、少し間ができるところもあって「あぁ、ここで、深澤さん泣いていたんだな」って感じました。
――そのほか、ご自身の実況で印象に残っているものはありますか?
2007年、中日と日本ハムの日本シリーズです。中日の山井投手が8回まで完全試合をしていたのですが、落合監督が9回に交代を告げたんですよね。そこで、これはどうなるのかというところで、自分で言うのも口幅ったいですが「山井の完全試合にストップをかけたのは、落合監督でした」というフレーズが出てきたんです。これは、ちょっと決まったかなと(笑)。この後の関根潤三さんの解説もすごくて「落合は血の涙を流していますね」とおっしゃったんですよ。その時の実況は、非常に入り込めました。
1994年の10月8日に行われた、中日ドラゴンズと読売ジャイアンツの優勝決定戦、いわゆる「10.8」も担当でした。当時、まだ若手だったのですが、そこまで優勝争いがもつれ込むという想定をしていないタイミングで、僕が担当することに決まって。(消化試合になるだろうから)これも最初にお話ししたように「観光旅行気分で…」と言われていたんです(笑)。ところが、ご存知の通り、最後の最後までもつれ込んで、まさに“国民的行事”になって。球場に行っても、報道陣が多くて、取材どころじゃないような雰囲気だったんですよね。あの時の自分としては、もう舞台が大きすぎて、まだまだそういう段階ではなかったと思います。深澤さんなど、諸先輩方がやっていればもっと深い実況ができたんだろうなっていう意味では、やらせてもらったことは栄誉なことではあるのですが、まだ技量が伴っていなかったなという気持ちもありました。
■ラジオ実況は50代が全盛期 若い世代の“取材方法”に「時代は変わった」
――いろんな方の話を伺っていると、ラジオの実況アナウンサーは50代に脂が乗ってくるのだということも聞くのですが…。
声が一番出るのは30代や40代でしょうけど、その頃は、野球に例えるならばストレートが一番速いけど、コントロールがなかったりするんです。50代ぐらいになると、いろんな過去の引き出しが増えてくるでしょう?『ニッポン放送ショウアップナイター』の場合、50代のリスナーの方が多かったりするので、リスナーの方が共感できるような話題なんかも出せたりするから、そこは強みですよね。
――今の若いアナウンサーに伝えたいことはありますか?
大泉健斗くん、小林玄葵くんの2人が若い世代ですが、本当に飲み込みが早くて、言われたことをすぐ実践できる能力がありますよね。コロナ禍になって、選手への取材などもずいぶん変わったのですが、2人は物怖じせずに、取材エリアギリギリのところで選手に声をかけたりしていて。外国人選手にも積極的に質問をしているので、どうやっているのかを尋ねたら、事前に質問したいことを英文にしておいて、こうやってマイクを出して、音声を翻訳機にかければ、意図はつかめるんですと言っていて、時代は変わったなと思いましたよ(笑)。
この間、小林くんとベルーナドームで一緒になった時、僕は自家用車で球場に向かっていて、夜10時くらいまでの試合になったから「途中まで乗せて帰ろうか?」と聞いたら「いや、〇〇選手の出待ちで聞きたいことがあるので…」と返ってきて。「終電早いから、そこだけ気をつけて」と言って別れたんです。それで、翌日聞いてみたら案の定「終電乗り遅れました」って。それで、どうしたのかと思ったら「清瀬に弟が住んでいるので、車で迎えに来てもらいました」って(笑)。それくらい熱心にやっていて。大泉くんも同様にとても熱心に取材をしています。
――60周年を迎える『ニッポン放送ショウアップナイター』について、リスナーへのアピールポイント
今、野球を伝えるメディアって、テレビ、ラジオだけじゃなくて、ネットも出てきたことで、一球速報など含めて、さまざまな形で野球を知ることができる時代になっていますが、やっぱり僕らはその現場に行って、自分たちの感性で、五感で感じたことを伝えることができる。文字で無機質に見るのと、現場で見て聞いて感じたことを言葉にするっていうのは、やっぱり違うと思うので、そこの臨場感みたいなものを、ラジオで楽しんでほしいし、それがないと多分ネットに負けてしまうっていうか、ラジオの存在価値がなくなると思います。
僕らはやっぱり、臨場感、自分がそこにいればこそわかる、自分の五感でわかるものっていうのを言葉にして伝えていくことを続けていけば、この先もその素晴らしさを感じてくれる人は居続けるだろうと期待しています。6月からは交流戦が始まります。セ・リーグとパ・リーグ、それぞれ違った野球がありますので、それが交わる魅力を楽しんでもらえるとうれしいです。
【松本秀夫】
1961年7月22日生まれ、東京都出身。顔がヤギに似ている事から、愛称は「ヤギ松」。財布、上着、携帯電話、眼鏡、中継資料と、あらゆる物を失くしながら人生を突っ走る。2017年からはフリーアナウンサーとして多岐にわたり活躍。今年は前のめりに、より熱い実況に燃える。
【ニッポン放送ショウアップナイター】
ニッポン放送ショウアップナイターでは「何かが起きる交流戦!」と題して、セ・パのプライドをかけた戦いを連日実況生中継。6月10日火曜日からの1週間は、毎日現金最大5万円が当たるチャンス。そして11日水曜日のソフトバンク対巨人戦では、ソフトバンク・巨人両チームを知る工藤公康がスペシャル解説を担当。14日土曜日のオリックス対巨人戦には熱烈なオリックスファン、なにわ男子の藤原丈一郎がゲストとして登場する。
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