急増する「梅毒」、手足口病や皮膚病と間違える人も?「治療は注射1本」早期の検査・受診を産婦…
大流行の梅毒、産婦人科医が提言
【一覧】まさか!? この症状があったら…! 梅毒の症状一覧
■マッチングアプリやパパ活も影響、長い潜伏期間と症状のわかりにくさが感染拡げる
――現在、50年に一度の規模で「梅毒」が流行しているそうですが、臨床の現場でもそのような実感はありますか?
「はい。当院でも昨年までは検査陽性者数は月に1~2件でしたが、今年に入って月に10件程度と増加しており、おおよそ報道の通りかと思います。梅毒はウイルスではなく菌。第1期~第3期までありますが、ほとんどの方は第1期か第2期で受診しますね。全身に様々な症状を引き起こすため、他の疾患と区別が難しい性感染症でもあります」
――なぜここまで流行しているのでしょう?
「潜伏期間が長い病気でもあるので、気づかずに感染を広げるリスクが高く、収束しにくいのではと考えられます。マッチングアプリやパパ活などの影響も少なからずあるかもしれません。患者の傾向についても東京都感染症情報センターの統計通りで、女性は20代が多く、男性は20代から50代まで幅広く感染者が見られます。男女でほぼ差はなく、大体同じぐらいと言えるでしょう」
――まず第1期(感染機会から10~90日後)では、直接接触のあった性器や口、肛門周囲などに、発疹やしこりができるとのこと。これは感染者自身が見ても梅毒だと判別はつきやすいものですか?
「人によって症状は様々なので、難しいかもしれません。しこりのようなものができることも、潰瘍のようにえぐれたようなものができる場合もあります。痛みはほぼないのですが、潰瘍状になって別のばい菌に二次感染を起こすとかなり痛いようです。また、肛門性交での感染では肛門の周りに出ることもあります」
――第2期(第1期から4~10週間後)の赤い斑点(梅毒性バラ疹)は有名ですが…。
「バラ疹は、1枚皮膚をかぶせたようなくぐもった感じの湿疹です。ただ、これも多種多様で、全身に出ることもあれば、部分的なことも。ネットで検索すると多くの写真が出てきますが、人によって症状は異なるので、過信は禁物です。これらの症状が出て、さらに何か思い当たる行為をした記憶のある方は、専門医のところで検査をすることが大事。ネットの写真がすべてではないと肝に銘じてください」
──しこりや湿疹というと、他の病気と間違えることもありますか?
「潰瘍のようなものができるという点では、性器ヘルペスとは間違えやすいです。また、性感染症ではないですが、手足口病と間違える人もいます。大人もかかる感染症なのですが、手や足に湿疹、口の中にも口内炎のような湿疹が出て症状が似ているため、注意が必要です。ほかに、ニキビやアトピー、乾癬なども間違いやすいですね」
――実際、皮膚病かと思って皮膚科を受診したら、梅毒だったというケースもあるそうですね。
「ありますね。単なる湿疹だと思って皮膚科に行ったものの、ちょっと怪しいから検査してみたら梅毒だったという患者さんは一定数います。でも、実は皮膚科でも基本的に治療は可能。梅毒か皮膚病か確証がないまま皮膚科に行ってしまっても、ちゃんと治療にアクセスできるのでご安心ください」
――そうなんですね! いきなり性病科に行くのはハードルが高い人も多いと思いますし…。
「ただ、皮膚科は基本的には保険診療で、保険診療のルールに従って検査や治療を進めるという制約があるため、時間がかかります。一方、性病科の多くは自費診療。自費なのでお金はかかりますが、早ければその日のうちに血液検査の結果も出ますし、スピーディに検査、治療が進められます。なにか思い当たる節があるのであれば、最初から性病科へ行く方が早く治療できますね」
■現代では“鼻がもげる”まで行くことはない? だが検査可能まで最低1ヵ月はかかる
――では、検査について教えてください。梅毒には潜伏期間があるとのことですが、疑わしい性交渉があった後、すぐに検査したほうがいいのでしょうか?
「淋病やクラミジアだと性交渉の翌日でも陽性になりますが、梅毒は性交渉から検査ができるようになるまで最低1ヵ月ほど時間がかかります。ただ、そうは言っても不安になる方も多いと思うので、まずは受診して相談、説明を受けたほうが良いと思います。『◯日後に来て検査をしましょう』という流れになったとしても、それだけでも意味はあると考えます」
――梅毒は症状がわかりにくかったり、いったん症状が治まったりすることで受診が遅れることもあるようです。受診が遅すぎて手遅れになることは? 昔は「梅毒になると鼻がもげる」といった話もありますが…。
「それは第3期(感染から数年以上経過)で、ゴム腫という腫瘍が鼻にできることで鼻の骨や皮膚を破壊し、鼻が腐り落ちる現象ですね。今は知識も治療も普及しているので、日本であれば“鼻がもげる”ところまで行くことはありません。でも、梅毒は一旦症状が治まっても潜伏しているだけで、そのままでは完治はしません」
――では、どのような治療をするのでしょうか?
「ペニシリンという抗生物質を使います。注射か飲み薬か、どちらでも治療ができます。注射は太い針をお尻に刺すのでわりと痛いのですが、症状が進行していなければこれ1本で終了。自費で1回約2万円程度です。ただ、梅毒がすでに第2期、第3期と進行してしまった場合は、注射を3本ほど打たなければなりません。経済的にも、なるべく早く受診するのが良いと思います」
――飲み薬のほうは?
「こちらは1ヵ月間、毎日薬を飲み続けないといけません。今は世界情勢の影響もあって飲み薬が不足しがちなので、1回で済む注射のほうが飲み忘れもなくおすすめですね。もちろんどちらの治療であっても、治療終了1ヶ月後にはちゃんと治っているかどうかの再検査が必須です」
――進行していなければ、注射なら治療も長引かないことは意外でした。これなら、少しでも早く受診するのがよさそうですね。とはいえ感染しないのが一番だとは思いますが、予防法は?
「やはり、避妊具ですね。梅毒は粘膜感染なのでコンドームは有効です。また、不特定多数と性交渉しない、定期的に検査を受ける、症状を認識して疑わしい場合は必ず受診、ですね。いきなり受診するのが難しい場合は、まずはオンラインでも検査ができます」
――血液検査なのに、オンラインでも可能なのですか?
「第1段階のスクリーニング検査ですが、送られてきた検査キットで指先をチクっとする程度の血液を採り、それを送り返すことで検査ができます。『まさか自分が』『受診が恥ずかしい』という方もいると思いますが、何かしら不安があるのであればまずはそこからでいいと思います。初期であればあるほど、治療にかかる費用も時間も少なくて済むので、なるべく早く検査することをおすすめします」
<プロフィール>
クリニックフォア産婦人科専門医
大阪大学医学部を卒業後、産婦人科専門医として大学病院等で主に生殖医療に従事。その後、厚生労働省に出向し、医系技官として不妊治療・出生前診断等の母子保健領域における行政施策推進に携わる。現職では女性のライフステージに応じたウェルネス向上をサポートすべく、ICT等を活用したスマートな課題解決の実現を目指す。
(文:衣輪晋一)
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