差別撲滅へ J1浦和レッズの鉄人キャプテンが目指す着地点

2021/02/24 07:30 

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 インターネット上にあふれる差別や中傷を巡り、サッカーのJ1浦和レッズは昨年、所属選手を標的にした差別的投稿に「法的措置も辞さない」との声明を出した。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言もあり、改めて多様性の尊重などが問われる中で、Jリーグは26日に新シーズンが開幕する。かつてサポーターによる差別的な横断幕に揺れた浦和だが、差別撲滅へ地道に活動している。その活動の象徴で、28日に75歳になる元日本代表主将が追い求めるのは、独自の着地点だ。

 「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ、BLM)」運動が広がり、テニスの大坂なおみ選手による抗議行動でも人種差別問題が注目された2020年。ネット交流サービス(SNS)では9月ごろ、Jリーグを巡る悪質な投稿が相次いだ。川崎フロンターレの実在するサポーターになりすました何者かが、川崎と対戦する相手の外国人選手の画像をサルと合成したり、心ない言葉を書き込んだりした。サルに例えるのは典型的な差別だ。

 外国人4選手が標的にされた浦和は公式サイトに「絶対に許すことはない」などと声明を載せた。同様に被害を受けた横浜F・マリノスなども「憤りを感じる」と抗議。川崎も「断罪されるべき」だと発信した。

 浦和は同様の差別的投稿に対し、18年時点では「容認できない」などと発していたが、発信内容は年々、強まっている。浦和広報は「選手を守り、クラブとしての姿勢を表すための強いメッセージ」と説明する。

 差別で思い出されるのは14年3月、浦和の本拠地・埼玉スタジアムでのサガン鳥栖戦で、入場ゲートのコンコースに「JAPANESE ONLY(日本人以外お断り)」と書かれた横断幕が掲げられた「事件」だ。Jリーグは、掲出意図に関わらず差別にあたると判断。クラブにとって数億円単位の減収となる無観客試合の制裁を科した。

 浦和はこれを受け、以前から取り組んできた「SPORTS FOR PEACE!(平和のためのスポーツ)」と題した活動に差別撲滅の啓発を組み入れた。スタジアムの特設ブースで来場者に差別撲滅の宣誓書への署名を呼び掛け、18年までに1万4741筆を集めた。ブースでは海外勤務経験のあるスタッフがサッカーや自身が受けた差別の話もする。新型コロナウイルスの影響で中断したが、アウェー側を含めて来場者が集う場になった。

 16年からは地元の高校にクラブ幹部が出向き、「グローバル講座」を開催。延べ約1万人の生徒に、欧州などで起きたサッカー界の差別などの事例を紹介し、言語や宗教、肌の色などの違いを認めた上で、寛容が大切だと訴えている。担当の白戸秀和パートナー・ホームタウン本部長(55)は「人を認めるところからしか始まらない。気づきの一歩になれば」と話す。

 こうした活動の源流には、浦和が主に地元小学生を対象に03年から実施している「ハートフルクラブ」という活動がある。技術よりも、差別問題を含めて心を育むことをテーマにした草の根の取り組みだ。現場では、元日本代表主将の落合弘さん(74)が「キャプテン」の肩書で先頭に立つ。

 細身で白髪の落合さんはスーツ姿で学校を訪れ、子供たちに次々と言葉を投げかける。事前にプロフィルを明かさず、「おじいちゃんはな……代表でキャプテンだったんだぞ。年間最優秀選手や得点王も取ったぞ」と自慢げに語る。「でも、うまくなかったぞ」と続けると、子供たちは戸惑う。そしてこう言う。「でも得点王を取れるんだ。それがチームスポーツだ」

 浦和の前身、三菱重工の選手で、日本リーグ得点王や260試合連続出場の“鉄人”記録を残した落合さんは、技術的に秀でたものがないと自認し、常に他の選手より考え工夫することを意識してきた。自身が大事だと感じた、①一生懸命やる②楽しむ③思いやりを持つ④考える――を説いて回る。活動は埼玉県内だけでなくアジア17カ国・地域や東日本大震災の被災地に広がり、参加者は毎年4万人前後で延べ約70万人。活動回数は1万回に届こうとしており、新年度に向けてスタッフ募集のほか、派遣依頼も受け付けていく。

 落合さんは差別撲滅を声高に叫ぶことはしない。「相手の立場になって考えられる人間になってほしい」と願い、そうなれば差別は起きないと信じる。ハートフルクラブの将来像を尋ねると、「最終的な着地点は消滅。なくなってほしい。でもなくならないだろう。残念だけど」と答えた。熱意を持って繰り返すしかないと考えている。

     ◇

 サッカー界は国内外で人種差別撲滅に取り組んでいるが、差別はピッチの内外で繰り返されており、根絶は容易ではない。

 「サッカーと人種差別」などの著書がある立教大の陣野俊史特任教授(59)は複数の大学での授業で、Jリーグクラブのユース(高校年代)や高校の部活動でサッカーをしていた学生と話し、「ここ2、3年、戦術面だけに特化し、多様性を認めない学生が増えている」と感じている。例えば女子サッカーについて「パスが遅い。見るに値しない、つまらない」と捉えるケースが顕著だという。こうした多様性の欠如が差別を生む恐れがあるとし、「技術中心主義に陥りがちで、教育の中でサッカーの多様性を織り込んでいく余裕がないのかもしれない」とみる。

 期待するのは9月に開幕する女子サッカーのプロリーグ「WEリーグ」だ。リーグは各クラブに選手15人以上のプロ契約を求め、役職員の50%以上を女性とする方針。陣野特任教授は「単一的なサッカー観が支配的だが、それを壊していくしかない」と話している。【江連能弘】

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