有料配信も実施 東京フィルメックス ディレクターに聞く映画祭の見どころ

2020/10/18 09:00 

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 ◇市山尚三さんインタビュー(後編)

 東京国際映画祭(TIFF)との連携とを深め、今年は10月30日~11月7日に開催される映画祭「第21回東京フィルメックス」。コロナ禍にもかかわらず、アジア映画を中心とした豪華なラインアップが目を引く。今年は多くの国際映画祭が開催の縮小や中止を余儀なくされたが、作品選定に影響はなかったのだろうか。東京フィルメックスの映画祭のディレクター、市山尚三さん(57)に聞いた。(前編:東京フィルメックス ディレクターが語る東京国際映画祭との連携を決めた理由)【聞き手・西田佐保子】

 ◇「コンペの中止は一切考えなかった」

 ――今年はTIFFでコンペティション部門が中止になりましたが、フィルメックスでも中止を検討しましたか。

 ◆多くの映画祭でコンペ部門が中止になっていますが、賞をもらうことは若手にとって大きな励みになります。TIFFは考えあっての決断だったと思いますが、フィルメックスでは、中止について一切検討しませんでした。

 ――コンペ部門に選ばれた12本の映画のうち、初監督作品は4本で、「オキナワ サントス」の松林要樹監督以外、フィルメックス初の顔ぶれとなります。また、今年の「カンヌ2020」にも選出されたノラ・マルティロシャン監督の「風が吹けば」、タル・ベーラ監督の映画学校「film.factory」出身のヒラル・バイダロフ監督の「死ぬ間際」は、それぞれ紛争が再燃しているアルメニアとアゼルバイジャンの作品で、これら二つの国の作品の上映は初めてです。

 ◆これはたまたまですね。「風が吹けば」はまさに今、ナゴルノカラバフ地域をめぐって戦闘中のアルメニアとアゼルバイジャンを舞台にした映画ですが、これも偶然です。純粋に、映画として面白いと思って選びました。

 バイダロフ監督は、講師として「film.factory」を訪れたときからの知り合いです。数年前にデビュー作を送ってくれましたが力不足でした。今回は2作目ながらベネチア国際映画祭のコンペ部門に入選した作品で、あまりにレベルが高くなっているので驚きました。

 ――今年は、2月のベルリン国際映画祭こそ無事開催されたものの、その後、カンヌ国際映画祭は通常開催を断念し、ロカルノ国際映画祭は開催中止になるなど、新型コロナウイルスの影響で多くの映画祭が中止や規模縮小を余儀なくされました。9月のベネチア国際映画祭も規模を縮小して開催されましたが、作品選定に問題はありませんでしたか。

 ◆ジャ・ジャンクー監督、ツァイ・ミンリャン監督、リティ・パン監督の新作など、特別招待部作品の多くはベルリン国際映画祭で上映された映画で、どれもクオリティーが高く、選定は難しくありませんでした。ただ、コンペ部門にふさわしい作品はなく、その点について不安がありました。ですが蓋(ふた)を開けてみると、ベネチア国際映画祭の(斬新かつ先鋭的な作品が集まる)オリゾンティ部門に質の高いアジア映画が数多く入っていたため、作品選びには困りませんでした。

 ただ、これらはコロナがまん延する前に撮られた作品です。コンペ部門に入っている「マイルストーン」(アイヴァン・アイル監督)もオリゾンティ部門で上映された作品ですが、インドで今年1月に撮影が終わった直後にロックダウンになるなど“ギリギリセーフ”で撮り終えています。

 コロナ感染拡大後に撮られた作品は、まだ映画祭には出品されていないようです。今年の春から夏にかけて撮影されていなかったので、来年しわ寄せが来るかもしれませんね。

 ――ベネチア国際映画祭では近年、クオリティーの高いハリウッド映画がコンペ部門に選出され、コンペに漏れた良質のアジア映画がオリゾンティ部門に集まっていると、昨年おっしゃっていました。今年のコンペ部門には、オリゾンティ部門で上映された作品が4本ありますね。

 ◆ベネチア国際映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラが率いる作品選定委員会が優秀なのだと思います。総じてアジア映画のレベルが高い。コロナの影響で、ベネチアのレベルが下がるのではないかという懸念はありまたが、杞憂(きゆう)に終わりました。

 また今年に関しては、本来ロカルノ国際映画祭のコンペ部門に入るべき映画がオリゾンティ部門に押し寄せた可能性があります。ロカルノの中止がオリゾンティ部門の質の高さにつながったのかもしれません。

 ◇有料配信を決めた理由

 ――コンペ部門には4本の日本映画(佐藤快磨監督「泣く子はいねぇが」、池田暁監督「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」、春本雄二郎監督「由宇子の天秤」、松林要樹監督「オキナワ サントス」)が選ばれています。

 ◆日本映画はそれぞれでタイプが異なり、4本を比較してどれかを落とすことができませんでした。どれも素晴らしい作品なので全て選びました。

 ――今年コンペ部門に選出された作品の傾向は?

 ◆毎年、それぞれの国の問題点を扱った作品が多いですね。特に社会派映画を推奨するわけではないですが、どうしてもその傾向が強くなってしまいます。ただ、「イエローキャット」(アディルハン・イェルジャノフ監督)はかなりばかばかしいコメディーですし、「不止不休」(ワン・ジン監督)もシリアスですが暗い話ではなく、社会問題に切り込んでいく新聞記者のストーリーなので、見ると元気が出る映画です。

 ――特別招待部門には、ホン・サンス監督、アモス・ギタイ監督など、いつもの豪華な顔ぶれが並びますが、他にも香港映画ファンには見逃せない作品もラインアップされています。

 ◆「デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング」(スー・ウィリアムズ監督)は、香港の歌手、デニス・ホーのドキュメンタリーです。雨傘運動など香港の動乱がかなり生々しく出てくるので、今、まさに見るべき映画だと思います。アン・ホイ監督やジョニー・トー監督らによるオムニバス映画「七人楽隊」は、ノスタルジックな香港が好きな人にはたまらない作品です。

 ――原一男監督の「水俣曼荼羅」(369分)、C.W.ウィンター & アンダース・エドストロームの「仕事と日(塩尻たよこと塩谷の谷間で)」(480分)、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の「繻子(しゅす)の靴」(410分)など、長尺の映画が多いですね。

 ◆これも偶然です。「繻子の靴」は、フィルメックスの本会期終了後に、朝日ホールとアテネフランセ文化センターで上映されます。日本初上映で、国内ではソフト化もされていないこの映画を35mmフィルムで見ることができる、一生にあるかないかの機会です。ぜひ、劇場に足を運んでほしいですね。

 ――コンペ部門では12本中3人が女性監督、審査員は5人中1人が女性です。この男女比について、どのようにお考えでしょうか。

 ◆ベネチアのディレクターであるアルベルトが言った「女性の映画だからといって、それを理由にコンペに選ぶのは女性に失礼である」という言葉に全く同意します。今回もあえて性別を全く意識せずに選びました。

 コンペ部門の「無聲(むせい)」(コー・チェンニエン監督)は入選が決まった後にプロフィールを見て女性監督だと気付き、「風が吹けば」のノラ監督も名前だけ見て男女の区別がつきませんでした。女性を理由に選んだ作品はありません。審査員については、坂本(安美)さん以外の女性にも声を掛けましたが「この時期は忙しい」と断られて、この5人に決まりました。

 ――フィルメックスの本会期終了後、一部上映作品の有料配信を決めた理由を教えてください。

 ◆特別招待部門を含め、全体の約3分の2の作品をオンラインで配信する予定です。一番の理由は、有楽町朝日ホール等で入場制限があるため、座席数が例年の半分になり、前売りチケットを購入できない方もいらっしゃることが予測できるからです。また、ツイッターの反応を見ると、「映画祭に行きたくても東京に出るのが怖い」という地方在住の方も多いようなので、その方たちのためにも、必須だと思いました。

 今年のフィルメックスの上映作品には、さまざまな国がそれぞれ抱えている問題を反映したものが多く含まれています。一部の作品についてはネット配信も行うので、東京近郊にお住いでない方も、ぜひご参加いただければと思います。

 ◇【東京フィルメックス】

公式ウェブサイト :https://filmex.jp/2020/

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