家族「思い伝わった」 原告以外も救済 ハンセン病家族訴訟

2019/07/12 21:13 

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 ハンセン病に対する根深い差別・偏見と闘ってきた元患者家族が、自らの手で全面解決への新たな道筋を切り開いた。家族への差別を放置した国の責任を認めた熊本地裁判決は、国と原告の双方が期限の12日までに控訴せず、確定。家族たちは、「心からのおわび」を表明した安倍晋三首相の談話を「思いが伝わった」と受け入れ、真に差別のない社会の実現に思いをはせた。【服部陽、蒔田備憲】

 12日午後、東京・永田町での原告団・弁護団の記者会見。原告の一人、原田信子さん(75)=岡山市=は「本当にうれしい」と声を震わせた。

 8歳の頃、父が療養所に収容された。父がいなくなった後の自宅は、雪が降ったかのように真っ白になるまで消毒された。患者の家族であることはすぐに知れ渡り、母は勤め先の魚の加工工場を解雇された。母子2人で「食べることもできない生活だった」という。

 談話では、安倍首相が家族と面会することを約束した。原田さんは「子ども時代のつらい思いや苦労が今の気持ちに一番残っている。総理に聞いてほしい」と期待を込めた。

 父が元患者だった原告団長の林力さん(94)=福岡市=は「解決への一つの手掛かりをもらった」と喜びつつ、こう訴えた。「この日を迎えても、ハンセン病の身内がいたことをひた隠しにしている人がいる」

 小学校教師として同和教育に力を注いだ。その陰で、「なぜ父の病気を隠すのか」と葛藤した。悩んだ末の1974年、患者の子であることを著書で明かした。「それが私の、新しい人間の誕生だった」と振り返る。

 「話すことができる人間が先に話し出せばいい。家族にハンセン病患者がいたことを是とする社会ではまだない。『今も療養所に身内がいるよ』ということを、茶飲み話でできるような社会をつくっていかなければならない」と呼び掛けた。

 先月28日の熊本地裁判決は、家族561人のうち20人について、国の違法行為が続いた2001年末まで本人も周囲も患者家族と認識していなかったとして請求を退けた。弁護団は、国に一律の救済を強く求めて控訴期限の12日を迎えた。

 首相談話と同時に発表された政府声明には、熊本地裁判決に対する反論が盛り込まれた。それでも控訴せず訴訟を終結させた理由について、家族訴訟弁護団共同代表の徳田靖之弁護士は「(談話で)私たちの思いを正面から真摯(しんし)に受け止めてもらえた。一日も早く(救済の)枠組みづくりを進めたい。リスクは大きいが、覚悟を決めた」と説明した。

 政府は訴訟への参加、不参加を問わず、補償措置を講じる方針も明らかにした。徳田弁護士は「これだけ活動をやってきたのに、差別が残っている。原因はどこにあるのか、これを明確に絞らないと、答えが出ない」と語気を強め、国と家族が一体となって差別解消に取り組む必要性を強調した。「人生被害の回復」に向け、弁護団は月内にも協議を始めたい考えだ。

毎日新聞

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