延命「いらない」、障害「存在しない」 参政党の主張が否定するもの
参院選は最終盤に入り、各政党や各候補者が独自の政策を盛んに訴えている。
その中で議論を呼んだのが、外国人の受け入れや権利の制限についての政策だ。
火付け役となった参政党は、他の分野でも社会の少数者を支える制度をなくそうと訴えている。
医療や福祉、ジェンダー平等――。
各テーマで打ち出す主張は、不正確な事実に基づき、時に当事者に対する「存在の否定」にも及んでいる。
◇終末期の延命治療「全額、自己負担で」
病で死を前にした人の生き方に、政治はどこまで介入すべきか。神谷宗幣代表は7月9日、北海道函館市の街頭で党の医療政策の一つを取り上げて声を張った。
「高齢者を無理やりチューブにつないで生かす必要あるんですか。そんなに何百万、何千万円かける必要ありますか。そんなに我が国にお金余っているんですか」
参政党は「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」を公約に掲げる。理由は「(延命治療が)国全体の医療費を押し上げる要因の一つ」だからと説く。
だが、この説明は事実に基づいていないとの指摘がある。
二木立(にきりゅう)・日本福祉大名誉教授(医療経済学)は「『終末期』の定義はないが、死亡前1カ月とするなら、その医療費が国の医療費全体に占める割合は3%程度にすぎない」と言う。「死の直前」に使われる費用が医療費全体を押し上げる可能性は、厚生労働省も否定しているという。
「事実誤認のうえ、そもそもがあまりにも乱暴な主張」と二木氏は続ける。延命治療の自己負担化は、「経済的な余裕がなければ、命をつなげない」事態につながるからだ。
「延命治療は人の生き方、生きる人の尊厳の問題。医師ら専門家が丁寧に付き添ったうえで、本人や家族が揺れながら決めるもの。それを費用、つまり金の問題と一緒くたに考えることは、一般的にあり得ない。『人を殺してはいけない』と同じくらい当たり前のことだ」
◇「発達障害は存在しない」
誤った認識に基づく参政党の問題提起は、障害福祉の分野にも及ぶ。
「発達障害など存在しません」「発達障害の大半は子供の個性にすぎません」
神谷氏が編著を担った2022年発行の「参政党Q&Aブック 基礎編」には、そんな記述がある。
23年4月には、今参院選にも比例代表で出馬している松田学氏が「発達障害の医療利権を糾(ただ)す」とX(ツイッター)に投稿。街頭演説でも「発達障害は存在しない」と語った。
交流サイト(SNS)で批判が高まり、松田氏は7月11日、当時の発信について「十分なエビデンスがなく、妥当性が検証できないことから、私としては、そのような発言はやめております。ご迷惑をおかけしたことをお詫(わ)びします」という謝罪の言葉をXに載せた。
一方、神谷氏や党はこれまで、「Q&Aブックは選挙時のバタバタで作ったもの。間違いがあり絶版にした」と釈明したものの、発達障害に関する個別の記述については言及していない。
これに対し、当事者団体「発達障害当事者協会」(東京都)の担当者は「根拠のない完全な誤情報が撤回されないままになっている」と憤る。
発達障害は医学的に認められ、厚労省による22年の調査によると、国内で87万人が発達障害と診断されたと推計される。承認された治療薬があり、04年には議員立法による発達障害者支援法が成立している。
「治療を要する障害を『存在しない』と扱われ、当事者からは『そんな主張が通ったら、障害者雇用による仕事がなくなるかもしれない』と不安や恐怖を訴える相談が届いている」と協会の担当者は話す。
「『個性』なんてふうに扱われたら困る人が大勢いるんです。支援や治療の枠組みがあるのは、偏見や差別に遭いながらも当事者が声を上げて理解を得てきたから。存在否定は優生思想のようで、強い憤りを覚えます」
◇「LGBTなんかいらない」
ジェンダーも、問題への理解を欠く主張を参政党が崩さないテーマの一つだ。
「LGBTなんかいらない」「性は男と女しかない」
神谷氏はこれまで、度々そう主張してきた。7月14日、松山市での街頭演説でも「ジェンダーフリーとかいらないんですよ」と叫んだ。
党の政策では「これまで平穏だった性的少数者が『差別される存在』として強調されることで、当事者の平安を脅かし、社会の分断を促進する可能性もある」とし、LGBT理解増進法の廃止を掲げている。
これを「差別そのもの」と断じるのが、一般社団法人「fair」の松岡宗嗣・代表理事だ。ゲイであることを公表し、長年、当事者の支援にも携わってきた。
「一方的な『これまで平穏だった』という決めつけは、当事者が遭ってきた差別を無視する物言いです」
学校でいじめを受けた。病院でパートナーの手術に立ち会えなかった。就職の採用を断られた――。性自認による理不尽な経験が多くの当事者にある。
厚労省の調査によると、当事者の8割以上は職場で自らの性自認をカミングアウトしていない。「つまり、気付いていないだけで、誰にとっても性的少数者は身近にいるかもしれない存在です」
神谷氏は再三、「LGBTへの差別はだめ」とも発している。松山市でも口にしていた。
だが、「LGBTなんかいらない」という言葉は、存在や人格の否定に他ならないと、松岡さんは訴える。
「それは社会からの排除でもあります」
◇党の回答、一部は「不適切だった」
こうした政策や過去の発信、当事者からの反論について、毎日新聞は参政党に質問状を送った。17日、事務局名で回答があった。
「発達障害は存在しない」という書籍の記述については、「神谷氏個人の見解」として「診断にも幅があると認識している。当時は発達障害という診断名が個性の尊重を妨げるおそれがあると考えていた」と説明。「一方で、すべてを一律に語ることは適切ではなかった」と釈明した。
また、LGBT当事者を「いらない」とする発言が「差別に当たらないと考える理由」を尋ねたところ、事務局からは「(当事者への)理解を法律で定める必要はないという立場の表明で、差別的意図はありません」という説明があり、「理由」に当たる回答はなかった。【春増翔太】
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