スマホから時短で一票? ネット投票の実験開始へ

2019/07/12 20:59 

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 今、この記事をご覧になっているスマートフォンやパソコンで参院選の投票ができたら……。そう思われる方も多いのではないでしょうか。残念ながら今の日本ではインターネットで投票はできません。でも、もしかしたら近い将来、ようやく変化が訪れるかもしれません。【秋山信一】

 ◇17年前に初の電子投票

 日本の選挙のルールは公職選挙法という法律で決められています。46条は参議院や衆議院の選挙について「投票所で投票用紙に(候補者名や政党名などを)自書して、投票箱に入れなければならない」としています。ネット投票は認められておらず、基本的なルールさえ定まっていないのです。

 実は日本でも2000年代前半、ネット投票に似た電子投票の導入が活発に議論されました。当時想定されたのは、スマホやパソコンによる投票ではなく、投票所に設置したタッチパネル式やボタン式の機械を操作する方式でした。02年には自治体の選挙で特例的に電子投票を認める法律が施行され、岡山県新見市の市長・市議選で初の電子投票が行われました。

 ◇トラブル続出「可児ショック」

 しかし、03年7月の岐阜県可児市議選で、致命的なミスが起きます。管理業者が投票機を冷やすためのファンの位置を投票日前に変更した結果、機械が過熱し、投票時にトラブルが続出したのです。05年7月に最高裁判決で可児市議選の選挙は無効になり、電子投票を推進していた関係者の間では「可児ショック」の言葉が広がりました。

 熱心だった自治体も、使用する機器のレンタル料など「コスト高」を理由に徐々に撤退していき、現在は電子投票を定例化している自治体はありません。国政レベルでも06~08年ごろに導入が議論され、国会に議員立法の法案が提出されましたが、「機械の信頼性への疑問」「画面上の表示が後ろの候補者が不利になる」などを理由に廃案になり、その後は議論が活性化していません。

 ◇ネット投票 先進国のエストニア

 日常的に使われるようになったスマホやパソコンを使ったネット投票は難しいのでしょうか。技術的にできないかと言えば、そんなことはありません。ロシアの西側にある人口約132万人のエストニアでは、05年にパソコンなどを使ったネット投票が始まり、今年3月の議会選挙では投票数の約44%がネットによるものでした。エストニアは「IT先進国」として有名で、国民IDカードさえあれば、スマホで行政手続きや納税もできます。

 ただ、エストニアに続く国はなかなか出てきません。ネット投票は便利ですが、サイバー攻撃、停電、機械の故障など多様なリスクにさらされます。16年の米大統領選へのロシアの介入疑惑にみられるように外国による選挙干渉の恐れもあります。過去にもフランスやノルウェーが、外国在住の自国民による投票や自治体の選挙でネット投票を試みましたが、セキュリティーの課題で中止されました。

 他にも「どうやって本人確認を行うのか」「投票内容の秘密をどう保護するのか」といった課題があります。日本の自治体の選管関係者は「スマホやパソコンを使いこなせない人もいる。選挙違反を監視するのも難しくなるかもしれない」と指摘します。

 ◇総務省が実証実験

 日本でも、接続スピードなど利便性が大幅に向上する第5世代(5G)移動通信システム時代を控え、ようやくネット投票の実現に向けた動きが出てきました。

 18年8月、総務省が設置した有識者の会議「投票環境の向上方策等に関する研究会」が一本の報告書をまとめています。海外在住の日本人の投票率が20%前後で低迷していることなどを踏まえて、ネット投票の導入を提案し、システムのモデルを提示しました。研究会は「国内の投票にも応用可能」と付言しました。

 野田聖子総務相(当時)は「無理じゃないかと言われていた技術面や運用面のハードルをクリアできたのかなと思う。大きな前進ができた」と評価し、総務省は19年度に実証実験を行うことを決めました。

 ◇マイナンバー利用、二重の暗号

 実証実験では、本人の確認にマイナンバーカードを使います。政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」にログインし、カードのデータを読み取ることで本人確認をする案が有力です。データ読み取り機能があるスマホやタブレットからも利用可能になる見込みです。

 秘密保護のため、投票データは二重に暗号化して送信されます。投票用紙を内封筒に入れた後、さらに外封筒に入れるのと同じイメージです。開票する際、一つ目の暗号(=外封筒)を解除しますが、同時に「誰が投票したのか」というデータを削除します。その結果、二つ目の暗号(=内封筒)を解除して「誰に投票したのか」が判明する時には、投票者が誰なのか分からない仕組みです。

 セキュリティーの確保は難題ですが、総務省の研究会では、予備サーバーの設置や民間のサイバー防御システムの利用などで「一定の対応が可能だ」と結論づけました。ただ「システムの実装段階に向けて詳細な検討が必要な課題もある」とも指摘しています。

 総務省の研究会に参加した情報セキュリティ大学院大学の湯浅墾道(はるみち)教授(情報法)は「『若者の選挙離れ』対策が強調されることがありますが、投票所に行くのが大変な高齢者や障害者、過疎地や離島の有権者にむしろ恩恵が大きいのではないでしょうか。最近は自然災害が多発し、投票日に投票所に行けないような天候になることもあります。ネット投票を併用するメリットは大きいと思います」と話しています。

毎日新聞

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