カラオケで「歌わない」利用が増加? 推し活にママ友会…苦境から復活した業界の驚きの変化
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もはや“歌うだけ”の場所ではない?
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■若年層の4割以上がカラオケで「歌わない」? 子連れママからも人気
コロナ禍の外出規制などで一時大きく落ち込んだカラオケ市場が、現在では順調に回復しつつある。その追い風となっているのが、「空前の推し活ブームと、歌わないカラオケ需要」と分析するのは、通信カラオケのJOYSOUNDなどを展開する株式会社エクシングの担当者。
推し活ブームでカラオケ利用が増えるのはわかるが、「歌わないカラオケ需要」とは何か? そのニーズが伸びているという興味深いデータも出ている。同社によると、この傾向は若い世代に顕著で、月1回以上カラオケルームを利用する10~20代のユーザーの42%が、「食事・喫茶替わり」「本人映像やDVD等映像鑑賞」など、歌う以外の目的で利用していることがわかったという。
「調査から、カラオケルームが“歌う”にとどまらない、人と人が気軽に集まれる場になっていることが伺えます。そもそもカラオケが日本で誕生したのも、日本人の価値観やライフスタイルにフィットしたコミュニケーション文化だったからだと考えられます」(エクシング担当者/以下同)
ホームパーティ文化が根付いた欧米とは異なり、日本では騒音への気遣いや、準備・片付けの煩わしさ、居住スペースなどの関係から、あまり自宅に人を招かない傾向にあるとされる。防音、飲食の提供、ゆったり過ごせる個室であるカラオケルームは、“半プライベート”な場としてホームパーティの代替に打ってつけだったと言えるだろう。
「実は、“歌わないカラオケ需要”には、ママ友同士の利用も多く含まれているんです。お子さん連れでの飲食店利用には気を遣うけれど、カラオケルームならどれだけお子さんを遊ばせても問題ないですし、お子さんの大好きなアニソンや映像もたくさんあります。趣味嗜好は多様化していますが、人と人が集まる価値は普遍的なもの。さらにコロナ禍を経て、その価値はますます高まっているのではないでしょうか」
歌わずにカラオケを利用する理由のうち、2番目に多かった「本人映像やDVD等映像鑑賞」は、いうまでもなく推し活の一環だろう。そもそも推し活というワードが一般化する前から、カラオケルームはオフ会やライブ参戦後の打ち上げ、本人不在の誕生会などに活用されてきた。ファン同士が集まる“半プライベート”空間であり、防音も施されているため、推しの曲を大声で歌うのも、合いの手で盛り上がるのも気兼ねなくできる。今では、歌わずに「観る」「集まる」が目的の一つとなっているのだろう。
こうした需要に伴い、カラオケ店舗側もアイドルやアニメとのコラボルームや、推しにからめたフードやドリンクの提供、ペンライトの貸し出しなど、さまざまなサービスを充実させている。集まる“場”を整えていった形だが、同時に進化しているのが“通信”の面。以前から、楽曲でも本人映像やアレンジバージョンなど多様な配信がされているが、歌以外の配信コンテンツやサービスの成長が目覚ましいのだという。JOYSOUNDでいえば、2019年に提供を開始した「みるハコ」があり、これが推し活需要にぴったりはまった。
「カラオケルームで映像を楽しめるサービスで、映画やアニメ、ライブ、イベントの生中継など豊富なコンテンツが配信されています。中でも人気なのがライブ・ビューイングで、ルームの熱狂はライブ会場さながらです」
ライブ・ビューイングは、自宅でも手軽にデジタル視聴することができる。だが、推し友同士であえてリアルの場に集まり、思う存分盛り上がるという体験は自宅ではなかなか味わえないはず。いわば“リアル×デジタル”のいいとこ取りをしているのが、こうしたサービスというわけだ。
■きっかけはZoom飲み会? 遠方の推し友と双方向で繋がれる“場”に
ただ、このようなサービスも2020年に始まったコロナ禍で停滞を余儀なくされた。カラオケ、そして「みるハコ」の強みである、“リアルな場”が失われることになってしまったのだ。これはカラオケに限った話ではなく、居酒屋や飲食店への来訪がはばかられ、人々がオンラインツールを活用した“Zoom飲み会”などで無聊を慰めたのは記憶に新しい。そんな中で、苦境に陥っていた同社に、ある考えが浮かんだという。
「当社もこの時期はオンライン会議が多かったのですが、一方通行の『みるハコ』がこれだけ楽しまれているならば、オンライン会議やZoom飲み会のように双方向なら、より高い体験価値を提供できるのではないか。Zoom飲み会はオンラインだけなのでだんだん飽きてしまいましたが(笑)、コロナ禍があければカラオケというリアルな場と組み合わせることもできる、という考えがありました」
そうしたアイデアから誕生したのが、2024年に提供開始した「X PARK」だ。これは、「みるハコ」の進化版とも言えるもの。離れた場所のカラオケルーム同士をオンラインで繋ぎ、カラオケも共に楽しめるというもの。遠方住まいの推し友たちとも、オンラインながらリアルな“場”と“時間”を共有できる。個と個であればどこでも繋がれる時代だが、場と場を繋ぎ同じコンテンツを同時に楽しむことで、より一体感が生まれるのだろう。この2月には機能がさらにバージョンアップし、曲予約や歌詞テロップ、採点が双方の画面に共有されるなど、さらに充実を図ったという。推し友同士だけでなく、機能を活用してアーティストとファンが双方向で楽しめるファンミーティングも複数開催されている。
コロナ禍を経て生まれた進化は、新たな事業の開拓にも繋がった。全国主要都市のカラオケルームと審査員を繋いだオーディションや、ボーカル講師と繋いだボーカルレッスン、占い師と繋いだ占いなどがあり、それはエクシングだけでなく、各事業者と協業することで実施されている。今後は、婚活事業者と取り組む恋活、子どもの習い事の見守りなども準備中だという。もはや、歌どころかエンタテインメントの枠にとどまらない、幅広い展開が見えている。
「X PARKは『カラオケの持つ“繋がる価値”を拡張した、新たなエンタテインメント・プラットフォーム』という位置付けです。自社だけで提供できるサービスには限界がありますが、さまざまな事業者のみなさんと協業することで、カラオケルームを“歌える部屋”から“遊べるパーク”に発展させたいという思いを込めています」
足を運んで歌うだけのハコだったカラオケは、このように知らないうちに驚くほど進化していた。歌うだけから、歌わずに観る・集まるへ、そしてもはやエンタメの枠すらも飛び越えそうな勢いである。カラオケルームにしかない“半プライベート”空間としても、“リアル×デジタル”空間としても活用できるこの場所。その根底には、コロナ禍で気づいた“繋がる価値”がある。ある意味で日本らしくもあり、まだまだ無限の展開が見えてきそうだ。
(文:児玉澄子)
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