クセ者たちの本気の宴会芸『翔んで埼玉』 ヒットの背景にある週末の外食に通じる“ささやかな喜…

2019/03/16 08:40 

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二階堂ふみとGACKTの対称的なビジュアルが世界観を作っている(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

 公開初週に映画動員ランキング1位を獲得。3週目でも2位をキープし、興収15億円を突破とまさかまさかの大ヒットを続けている映画『翔んで埼玉』。メインキャストのGACKT自ら当惑をTwitterでつぶやくなど、誰もが予想できなかった展開になっている。

【写真】冷めた目線で見下す正装で金髪姿の二階堂ふみ

 どんなに贅を凝らした映画も当たるとは限らない。映画は水物。常に一か八かの一大博打だ。だから「ヒットの法則」なんて、あるようでまったくない。だが、あえて考えてみたい。なぜ、『翔んで埼玉』はこれほどまでにバカ当たりをしているのか。

■ネットの時代の“掘り起こし”で延命された「新しい作品」

 原作は魔夜峰央氏の同名コミック。しかも未完である。魔夜氏は『パタリロ!』で知られる長いキャリアの漫画家だが、『翔んで埼玉』は決して魔夜の代表作ではない。つまり、原作者は著名だが、原作漫画は必ずしも広く知れ渡っていたわけではなかった。

 1982年から翌83年にかけて描かれた『翔んで埼玉』は、さほど話題になることはなく、2015年にネット上で“埼玉をディスる過激な漫画”として話題にのぼったことから、復刊が決定。わずか2ヶ月で50万部を突破した。

 まず、本作の勝因として第一に言えるのは、突如のブレイクがそれほど遠くはない過去の出来事であり、ネット発だったことが挙げられる。原作本ならびに、原作者が有名すぎると、神格化され、「それを映画化、しかも実写化するとは何事か」という保守的な意見が主流になることもあるが、執筆から30年以上が過ぎた末、突如ブレイクした“変種”であれば、そうした「偏見」とも無縁でいられる。

 また、逆に言えば、『翔んで埼玉』は伝説の作品ではあるが、ネットの時代にふさわしい“掘り起こし”によって、その生命が延長されたという経緯がある。つまり「新しく」「若い」作品なのだ。少なくとも、2015年に本作に与えられた価値は「新しく」「若い」。こうした“親近感”が、(そうした事情を知るにせよ知らないにせよ)なんとなく映画版にも漂っていたのではないか。

■まるで「スターかくし芸大会」 豪華にして究極の“宴会芸”を眺める気楽さ

 一見して、二階堂ふみとはわからない二階堂ふみ。誰が見ても、GACKTだとわかってしまうGACKT。主演ふたりの(ある意味)対称的なビジュアルが世界観を作っていることも重要だ。

 二階堂が男役をやっていることは大きな要因であり、また元祖ビジュアル系であるGACKTが時空を超越した美貌で「高校生」(!)を演じていることも、やはり大きな要因だ。

 ざっくばらんに言ってしまえば、この世界観は宝塚であり、ミュージカルである。「ありえないことがありえる」になるシアトリカルな土台がまずある。もちろんキャスト陣が本気で身を挺しているから、それは実現している。

 伊勢谷友介、京本政樹、中尾彬、麿赤兒、竹中直人といった、かなり「歌舞いた」面々が顔を揃えていることも、だから当然と言えば当然。誤解を恐れずに言えば、これは「スターかくし芸大会」のようなものであり、観客は豪華にして究極の「宴会芸」を眺めるように、スクリーンに接せることができる。この気楽さ。

 アクの強い出演者が、スキを見せずに繰り広げる徹底した「ショウ」だからこそ、観客は安心して笑い転げることができるのだ。

■危険な題材を軟化させ、大衆娯楽へと模索された最適な「温度」

 第三に、『テルマエ・ロマエ』の武内英樹監督の手腕が挙げられる。埼玉県民が徹底的に差別されているという設定は、いくらフィクションとはいえ、とかく「炎上」とは無縁ではない昨今、危ういと言えばかなり危うい。だが、武内監督は、風呂敷を広げるだけ広げ、大仰なスケールで、これは「ただの伝説ですよ」とでも言いたげな、説話構造を映画に導入した。

 ブラザートムが映画の幕開けを飾るという脱力感は最高だ。これが、前述した親近感や気楽さと結びつくことによって、埼玉をディスるという過激な骨格もソフィストケートされる。度を超した大仰さは、誰もが笑えるものになる。そして「差別」という本来あってはいけないものも、虚構化される。そのあたりの塩梅が実に洗練されている。

『テルマエ・ロマエ』はご存知のように古代ローマ人が現代の日本に現れ、「お風呂文化」に接して目覚めていくという物語を、ほぼ半裸の阿部寛が大真面目に演じて多くの支持を得たが、作品的にはまさに「温泉」につかるようないい湯加減のギャグセンスが横行していた。

 それは『翔んで埼玉』でも変わらない。差別という危険な題材を軟化させ、大衆娯楽にするために最適な「温度」が模索されている。

 GACKTと伊勢谷友介の衝撃のキスシーンや、舞台や映画(今秋公開)で『パタリロ!』の主人公を熱演している加藤諒の登場など、さまざまなギミックに彩られてはいるが、それらもすべて、観客のくつろぎのために提供されている。

 温泉宿ほどの贅沢ではない。週末にファミリーで、ちょいとスーパー銭湯に出かけ、焼肉やら寿司やらで夕食をすます。そんなささやかな喜びに通ずるのが『翔んで埼玉』という娯楽だ。
(文/相田冬二)
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