日銀総裁、利上げへ一歩踏み込む 高市政権の理解へ苦心にじむ
日銀の植田和男総裁が1日、次回12月会合での追加利上げに向け、一歩踏み込んだ発言をした。円安進行が物価上昇(インフレ)を助長することへの警戒感も示し、早期利上げが必要なことを説く「補強材料」としている。追加利上げに慎重とみられる高市早苗政権の理解を得られるかが焦点となりそうだ。
「緩和度合いの調整が遅れると米国や欧州で経験したように非常に高いインフレ率になり、政策金利が4~5%にならないといけない可能性が出てくる。それは混乱を引き起こす」。植田氏は講演後の記者会見でこう述べ、いまだ0・5%程度の低水準にある政策金利を早めに引き上げる必要性を改めて訴えた。
植田氏は前回10月会合後の会見で、利上げ判断のカギを握る賃上げ動向について「初動のモメンタム(勢い)」を見ると説明。春闘の結果が明らかになるのを待たず、12月か来年1月の会合で利上げするとの見方が有力になっていた。
だが、植田氏は1日、現時点で力強い賃上げが実施されそうとの見通しを語ったうえで、12月会合で「利上げの是非を判断したい」と明言。市場では、「ただ『利上げを検討する』と言うのではなく、どの会合で議論するか具体的に示した。従来より踏み込んでいる」(東短リサーチの加藤出チーフエコノミスト)との受け止めが広がった。
日銀が最後に利上げした今年1月会合の直前にも、氷見野良三副総裁が「来週の金融政策決定会合では、『展望リポート』にまとめる経済・物価の見通しを基礎に、利上げを行うかどうか議論し判断したい」と、会合を特定して利上げを議論すると説明。市場では「『地ならし』したうえで利上げする前回と似たような展開になる」(エコノミスト)との見方も出ている。
円安とインフレに関する説明にも変化が見られる。
植田氏は1日、「円安が進むと輸入物価の上昇が国内価格に転嫁され、物価押し上げ要因になる。しっかり見ていきたい」と説明。円安を原因とする物価上昇に警戒感を示した。
日銀は従来、「企業は輸入物価の上昇コストを自社で負担することが多く、円安とインフレの因果関係は薄い」(幹部)との立場だった。だが、ここ数年、多くの企業が人件費や資材価格の高騰を小売価格に転嫁するようになり、値上げのハードルが下がっている。
植田氏は11月の国会答弁でも今回と同様の発言をしており、「円安が物価上昇リスクになる」との立場への軌道修正を図っている。日銀が目指す利上げは円安食い止めの効果があり、「利上げ必要論」を支える説得材料になりそうだ。
日銀が苦慮するのが高市政権の存在だ。
10月に就任した高市首相は金融緩和と財政拡張を志向する「リフレ派」で、景気を冷やす可能性がある利上げに慎重な立場。11月には21・3兆円規模の大型の経済対策を決定したばかりで、政権内では「政府が景気浮揚に向けアクセルを踏む中で、日銀がブレーキをかけるのか」と問題視する向きがある。
植田氏は1日、講演に続き会見でも「ブレーキを踏んでいるというより、アクセルの踏み方を調整している程度のものとお考えいただきたい」と強調。わかりやすい言葉を使ってリフレ派の理解を得たいとの苦心がにじむ。【大久保渉】
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