重厚長大から一転、震災25年で兵庫経済が見いだす活路

2020/01/13 10:44 

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 兵庫経済にも大きな打撃を与えた阪神大震災から間もなく25年。リーマン・ショックなどの荒波を乗り越え、兵庫県内の企業は、鉄鋼や造船など重厚長大型産業を中心とした経済からの転換を図ってきた。官民で新産業の振興に取り組んだ結果、航空や医療分野に活路を見いだす企業が生まれつつある。【釣田祐喜、宇都宮裕一】

 ◇新しい仕事、会社支える柱は複数必要

 中小の工場が林立する神戸市長田区の工業団地。金属部品加工会社「山城機工」の工場内では「シャー」といった工作機械の大きな音が鳴り響いている。

 所狭しと並んだ工作機械を10人ほどの技術者たちが黙々と操作している。生産しているのは、航空機や産業機械に欠かせない金属部品。技術者たちは、機械を使い金属の塊に穴を開けたり、溝を掘ったりと複雑な作業を繰り返す。

 技術者の作業を見守る岡西栄作社長(56)は時折振り返る。「震災以降の紆余(うよ)曲折を経て新しい仕事に貪欲に取り組まなければ生き残れなかった」

 長田区は震災の被害が特に大きかった地域だ。山城機工の工場も全壊し、操業再開するまで2カ月以上かかった。

 売上高の約4割を占める大手空調メーカーとの取引は途絶え、一時廃業を考えた。「社員の生活もある。再建しよう」。思い悩んだ末、岡西社長は、会社を存続させるため、中小零細企業など新たな取引先の開拓に奔走。次第に半導体製造装置向けの部品の取引が増加し、業績は回復していった。

 その後手掛けたのが航空部品の加工だ。「中小企業の航空事業参入を支援する官民の取り組みにも触発された」。航空部品は、精度の高さが求められるため品質管理の国際規格も取得。取引先の多角化を進めた結果、売上高は震災当時の3倍を超えた。

 「一つの仕事に売り上げの多くを依存する怖さを痛感した。会社を支える柱は複数必要」。試行錯誤する中で岡西社長が得た教訓だ。

 兵庫県は大手航空機メーカー向けに機体や装備品を供給する川崎重工業や住友精密工業といった1次下請けが集積。恵まれた環境を生かし、航空機産業向けの取引拡大に力を入れる中小企業が相次いだ。

 県の航空機産業の出荷額は2016年に約1700億円と全国4位を誇るまでに成長。ただ、全盛期の勢いはない鉄鋼業の出荷額の約2兆円と比較しても10分の1以下だ。

 公益財団法人「新産業創造研究機構」(神戸市)の緒方隆昌専務理事(61)は「航空分野で活躍する中小企業は鉄鋼などの仕事で培った技術力を基礎に参入した企業が多い。ただ、参入障壁が高く基幹産業となるまではまだ時間がかかるだろう」と話す。

 ◇「復興の起爆剤」 医療産業都市構想

 神戸港内の人工島「ポートアイランド」にある神戸医療産業都市。神戸市が1998年、復興の起爆剤にしようと医療産業都市構想を打ち出し、企業を積極的に誘致した。

 努力が実り、今では理化学研究所や病院、医療関連企業約360社が立地し、基礎・臨床研究から産業化まで取り組む医療の一大集積地となった03年創業のバイオベンチャー「カルナバイオサイエンス」も神戸市からの誘いを受けて進出した。

 酵素を用いて免疫の働き方を調整し、がんを攻撃する力を強める技術を開発している。インフルエンザ治療薬「タミフル」を開発したことで知られる米製薬大手と新薬開発権の譲渡契約を結ぶほど技術力の高さには定評がある。吉野公一郎社長(70)は「産業都市は知名度のある場所となり、優秀な技術者を集めやすくなった。この場所に立地したおかげで今がある」と話す。

 製品開発も活発だ。検査医薬大手シスメックスと川重という神戸にゆかりの深い2社が設立したロボットベンチャー「メディカロイド」は、医師が立体画像を見ながら遠隔でロボットを動かし手術ができる製品を開発中だ。近隣病院の医師らに使い心地を試してもらいながら改良を重ね、もうすぐで製品化というところにまでこぎ着けた。シスメックス会長兼社長の家次恒・神戸商工会議所会頭(70)は、「集積効果を生かして、新しい製品の開発や生産をさらに増やし、医療を兵庫の主力産業といえるような規模に育てたい」と意欲を示す。

 ◇人口減少、拡大する全国との経済格差

 阪神大震災から25年の兵庫経済の歩みは、必ずしも力強いものとはいえなかった。震災の影響が全くない1990年度を100として、兵庫県と全国の実質GDP(総生産)の推移を比較すると、一貫して兵庫県は全国を下回っており、その差は近年拡大傾向にある。

 人口減少に歯止めがかからないことや川崎製鉄(現JFEホールディングス)など大企業の拠点閉鎖の影響などを受けている。産業構造の転換の遅れも指摘されている。

 兵庫県立大学大学院の加藤恵正教授(都市政策)は、「大阪や京都は観光やIT(情報技術)産業が成長産業となって若者の雇用の受け皿となっている。兵庫でも航空や医療といったものづくりの活性化に加えて、IT企業の誘致や観光振興も重要だ」と指摘する。

毎日新聞

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