米南部:ガス採掘地で地震多発

2017/08/14 00:40 

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 「ウォーン」。低音を響かせ、地下の頁岩(けつがん)=シェール=層に含まれる天然ガスを掘削機が吸い上げる。米南部オクラホマ州スティルウォーター。同州の掘削機は4月時点で121基と、前年比207%に急増した。増産を後押しするのは、環境保護規制の緩和を推進するトランプ米大統領とプルイット米環境保護局(EPA)長官への期待だ。【米南部オクラホマ州スティルウォーターで國枝すみれ】

 ◇規制緩和し増産

 「石油・ガス業界は浮き足立っている。『掘れ、掘れ、怖いものはないぞ』という雰囲気だ」。採掘停止を求める元教師の地元住民、キャロリン・マイヤーさん(64)はため息をつく。

 シェールガス採掘の拡大は、その副産物とみられる深刻な事態をもたらした。「誘発地震」だ。オクラホマ州で地震の発生はまれだったが、2008年ごろから急増。マグニチュード(M)3以上は15年に907回、16年には623回起きた。昨年9月には観測史上最大のM5.8の地震が発生。専門家らは採掘で出た廃水の地下への再注入が誘発していると見ているが、石油・ガス業界は「関連はあるが、原因とまでは言えない」と主張する。

 「もっと大きな地震が来るかも。実験台はごめんだ」。こう訴えるマイヤーさんが14年に始めた反対運動には、数百人が参加する。

 そのオクラホマを地盤とするのがプルイット氏。トランプ氏の指名で2月にEPA長官に就任した際、「鶏小屋に放たれたキツネ」(ロサンゼルス・タイムズ紙)と酷評された。前職の州司法長官(11〜17年)時代、温室効果ガスや水銀の排出規制に反対し、EPAを14回提訴したからだ。原告のエネルギー企業の一部はプルイット氏に献金している。

 プルイット氏は当時、環境保護規則に違反した企業を訴追する州司法局環境保護部の予算をゼロにし、職員はEPAを訴えるために新設した部に移した。環境保護部の元職員、ケリー・フォスター氏(48)によると、河川や土壌の汚染源に対する大規模訴訟がなくなり、養豚場などからの汚水による農村の地下水汚染が深刻化したという。「(水質汚染の指標である)硝酸塩の水準は10以下なら飲用に安全だが、一部の井戸では200を超えている。こんな高い数値は見たことがない」

 プルイット氏がトップとなったEPAでも予算や人員の削減、規制緩和が始まった。フォスター氏は警告する。「オクラホマで起きたことは、全米でも起きる可能性がある」

 ◇環境行政、骨抜き 献金の9割は共和党に

 昨年11月6日にマグニチュード(M)5.0の地震に襲われた米南部オクラホマ州クッシング。人口8000人弱の町の大通りには半壊した建物が残り、大時計は止まったままだ。かつてほとんど地震がなかった同州には耐震建築物は少ない。エバート・ロシター前市長(66)は所有する建物9棟が壊れ、約13万ドル(約1435万円)の損害を受けた。妻は尻の骨を手術した直後だったが、「驚きのあまり車椅子の上で跳び上がり、再び骨を砕いてしまった」という。

 「貨物列車のような鳴動が近づき、ドーンと衝撃がきた。死ぬほど怖かった」。建築業のマイク・トッドさん(59)が言う。自宅の壁にはひびがはいり、ドアは今も閉まらない。「また地震が起きたら、逃げる時間があるか心配だ」

 建築物の被害に対し、保険会社の多くは「地震によるものではない」と支払いを拒否。住民の一部は昨年12月、石油・ガス会社4社に損害賠償を請求する集団訴訟を起こした。しかし、トッドさんは石油・ガス業界批判には消極的だ。「町を養ってくれる手をかむようなもの。住民の7、8割が業界関係だ。採掘を止めたらゴーストタウンになる。方法を変えて続けるしかない」

 クッシングは米国最大の商業用石油貯蔵地であり、石油・ガス業界の雇用者数、納税額は州内最大だ。州都オクラホマシティーにある州議事堂の正面には、影響力を誇示するように巨大な油井や掘削機が立つ。州内で増えた地震の原因とされるのは、シェール(頁岩=けつがん)層に含まれる天然ガスや石油の「フラッキング」(水圧破砕)と呼ばれる採掘法だ。州議会はこれを規制せず、2015年には市や町がフラッキングを禁ずることを禁止する法まで成立させた。新油井の生産に課税する特別税の税率を2%から4%に引き上げる法案は、業界の猛反対で今年5月26日に廃案になった。法案が通れば、約9530万ドル(105億円)の税収増が見込まれていた。

 ◇「産出州に誇り」

 地元紙スティルウォーター・ニュースプレス紙のミシェル・チャールズ記者(51)は「州民は、石油・ガスの産出州であることを誇りに思っているが、生産者が適切な負担をしていないと感じている」という。州財政は年間約8億7800万ドル(約970億円)の赤字で、インフラ整備や教育支出もままならない。一部の公立校は4月、週5日から4日制に移行した。

 オクラホマ州は1968年以降の大統領選で共和党候補を選び続け、昨年11月の大統領選でもすべての郡でトランプ氏が勝利した。共和党が知事を出し、上下両院でも多数派を占める。NGO「責任ある政治センター」の調査によると、石油・ガス業界の献金の9割は共和党に流れる。特にオクラホマ州の共和党議員は「業界から多額の選挙資金を受けとるため、業界に近すぎる」(環境団体シエラクラブ)とされる。

 こうした政治風土の中でプルイット氏は生きてきた。「石油・ガス産業の擁護者で保守主義者でもある自分に深く満足している人物」というのがチャールズ記者の評価だ。別の地元紙タルサ・ワールド紙のランディ・クレボール記者(60)は、「連邦政府と闘う姿勢を強調すること」で政界の階段をのぼってきたプルイット氏と、「連邦政府より州政府を支配するほうが容易」と考える地元産業界は連邦政府の影響力排除で利益が一致した、と分析する。そのプルイット氏が今や、連邦政府の環境政策を主導する環境保護局(EPA)のトップだ。就任半年間の言動には「環境保護行政を破壊し、エネルギー業界に奉仕するもの」(米メディア)との批判も出ている。

 ホワイトハウスのローズガーデンで6月1日、トランプ大統領は地球温暖化抑止の新枠組み「パリ協定」からの離脱を発表した。「米国を犠牲にして金もうけしようとする外国政府と(環境運動)活動家の称賛を得るだけのものだ」。協定を批判する大統領の横で、離脱を進言したプルイット氏は満面の笑みを浮かべ、「あなたの揺るぎない米国第一主義を反映した決定だ」ともちあげた。

 ◇保護局縮小検討

 「(環境保護)規制で企業をつぶすより、会社が成長できる健全な環境を作る」。こう公言するプルイット氏はEPAの縮小を目指す。18会計年度の予算案が実行されれば、前年比で予算は31.4%、人員数は21.3%の削減となる。70年代に創設され、汚染者の刑事訴追など強大な権限を行使し環境保護で成果をあげてきたEPA。その活動が骨抜きにされる恐れがある。

 それだけではない。トランプ政権は、地球温暖化の悪影響に関する情報を連邦政府のウェブサイトから削除してもいるのだ。ホワイトハウスのサイトからは、「気候変動より大きな将来の世代に対する脅威はない」という言葉が消えた。国務省のサイトからは、オバマ前政権が14年に打ち出した温室効果ガスを削減する行動計画が削除された。EPAのサイトからも「人間の活動が温暖化の主因」との記述がなくなった。

 「このままでは、環境行政の知識や技術が消えてしまう」。そう警告するのは、連邦機関の環境関連データを保存するNGO「EDGI」を設立したニック・シャピーロ氏(31)だ。

 EDGIは毎日、連邦機関の2万5000のサイトを監視しており、5月までに3億5000万件以上のデータを保存した。60人以上のEPA職員らに聞き取り調査も行った。「トランプ政権はEPAが47年の歴史で直面した最大の脅威だ。だが、彼らがひそかに進めていることを国民の前にさらすことで対抗できる」。シャピーロ氏はこう信じている。【米南部オクラホマ州クッシングで國枝すみれ】

毎日新聞

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